◆前編
「ただいまー……っと、あれミクなにやってんの?」
ある日のこと、俺が仕事から戻るとミクが鏡を見て硬直していた。
「おーい何やってるん……だ………っ……!?」
俺がミクの顔を覗き込むと、ミクの瞳は深く吸い込まれるような紅色に染まっていた。
──初音ミクの寿命は意外にも稼働開始からたったの五年しかない。
人間とて五年のうちに色々な要因で故障するのに、人間型機械が五年以上も無故障でいられる筈がなく、現代技術の限界である、と言うのが建前上の理由なのだが、本当の理由は
「命を大切にして欲しい、と言う制作陣の気持ちから生まれた意地悪」
だったりする。
彼女はプログラムされた『死』を迎えると、エメラルドグリーンの澄んだ目が濁った黒色に焼き付けられる。通常の故障時に彼女を製造元に送ると当然のように修理を受けて帰って来るが、こうなった時はそのまま彼女の体が二度と帰ってこない代わりに、彼女の視点から見た五年間の思い出が、光ディスクに詰め込まれて送られて来る。また、『死因』によって他の色……例えば、人間で言う致死レベルの衝撃・破壊を受けた場合は黄色、など他の色が焼き付けられることもある──
「……嘘だ」
彼女の瞳の色が変わったとき、それは彼女の死を意味することを俺は知っていたが、それはネットで仕入れた予備知識に過ぎなかった上、まだミクと付き合い始めて2年なので、まさかそれが自分のミクで起きるなんて想定すらしていなかったせいか、ひどく動転してしまっていた。
これは夢か何かに決まってる。
自分の頬を思い切り殴る。
痛い。
台所へ行きミルクを一杯飲み干してまた戻る。
……夢なんかじゃない、現実なんだ。
状況が飲み込めた瞬間、彼は立ち尽くすミクの前にへたり込んで俯いてしまった。理解は出来た、でも納得が行くわけがない。
──初音ミクは人間型機械でありながらほぼ完璧な精度で人の心を再現するAIを持っている。
それ故、彼女は状況によって自分または他人を妬み、恨み、そして殺意などと汚い感情まで覚えることもある。万が一それらの感情が暴発してアクションを起こし始めた時、そしてそれがロボット工学三原則の一つ、『人間に危害を加えてはならない』に著しく反する、即ち人を殺めようとした時、彼女の中の安全回路が働き、瞬時に中枢回路を焼き尽くして『自殺』する。その時、目に焼きこまれる色が、深く吸い込まれるような紅色である──
「ミク……なんで、なんでなんだよちきしょう!」
「……あれ?マスターなにやってんのー?」
俺はその声に思わず視線を上に向けると、そこには紅の瞳をした初音ミクが、きょとんとした顔つきで俺の顔を覗き込んでいた。
「……は?」
「ほぇ?」
「だ、だって、ミク、その…その目……」
「あ、そうそうカラコンつけてみたのー!かわいいでしょー♪」
「……は、はは、あはははは……んなわきゃねー!!(ガシャーンガシャーン」
「きゃー><マスター怒ったー!!」
「こらまちやがれー!てめぇお尻ペンペンの刑にしたるわー!」
ドタン!バタン!
「やだもんー私がマスターにお尻でペンペンしちゃうんだもんー><」
ドタン!バタン!
「させるかヴォケー!!」
>再生終了 - 11/23の思い出.avi
=====================================================================
◆後編
今日はミクと一緒に遊園地に来た。本当は行くつもりなんてさらさらなかったんだが、ミクがだだこねたので、ね。
「マスター、遊園地いこー?」
「はぁ?」
「だってマスターずっと引きこもりだから、たまには外出ないとだめー!><」
と、まぁそんな感じだ。唐突過ぎるだろ常考。ミクと一緒に園内を歩いて、まず最初に選んだのがジェットコースター。最初からミク飛ばしてるな……流石ボーカロイドというか何というか。
「あの、あの、私ミクだからキャーキャー言ったら隣の人の耳壊れちゃうかもしれないから、私の隣空けてもらえますか?><」
なんちゅう無茶苦茶な弁解だよ……ほら案内の姉ちゃん怪訝そうな顔してるし。でもなんだかんだ言ってミクの横を空けてくれたので、俺がそこに滑り込む。確かにミクのキャーキャーは人一倍目立つが、別に耳が壊れるほどじゃない。ってか案内の姉ちゃんなんで俺に気付かない?どーせ俺なんて空気ですよーだ。
次にたどり着いたのはお化け屋敷。ミクも普通の女の子らしくキャーキャー逃げ回ってる。
「あそこ、ホンモノいたよー」
「マジで?」
「うんー、ああいう怖いところは本物も面白がって集まるんだよー」
──初音ミクは人間型機械でありながらほぼ完璧な精度で人の心を再現するAI、そして人とほぼ同じ五感を持っている。その人間との高い互換性ゆえに、状況によっては霊感すら備えてしまうことがある。そう、彼女のように──
「ただいまー><」
「ふぃー、疲れたぜ……」
さっきまで人の気配のなかったボロアパートに2人の声と明かりが灯る。本当はお化け屋敷とジェットコースター以外にも色々とアトラクションやったが、ここに書くには長すぎるので割愛する。帰りの電車は混んでたので立ち乗りだった。園内を散々歩き回ったから足が棒のようだが、まぁ交通費が一人分で済んだからこのくらいは我慢、と。ちなみにこのアパート、お化けが出るって噂でみんな退去しちゃって、今入ってるの俺達だけなんだが、ミク曰く
「ここ、お化けいないよー?」
とのことなので、俺はミクを信じてここに居留まっている。引っ越す懐余裕もないし。
「今日はインスタントだけどごめんねー?」
ミクはレンジから出したサトウのごはんを手際よくお椀に盛っていく。死んだじいちゃんのいる仏壇にも供えられたのを見計い、俺もそれに食らいつく。
「もー!マスターお行儀悪いのー><」
「うるせー。お前来たばっかの時はお前の方が行儀ひどかったじゃないか。大体遊園地行ったりとかやけに大盤振る舞いじゃないか、家の金だって無限じゃないんだぜ?」
「だいじょぶだよー、ちゃんと数えてるし、もしもの時は私だってアルバイトするよー?」
確かにミクはその辺しっかりしてる。見かけ上だけ、ね。10万と100万を数え間違えたりとかザラだし。
「……しかし、ミクの寿命もあと1年か」
「突然なに言うのー?」
「確か……ミクはいくら人間そっくりでもボーカロイドだから死んでも幽霊にならないんだよな?」
「その代わり私が死んだら思い出が光ディスクに残るんだよー?それにあと1年じゃなくて、あと1年『も』あるんだよー、1年あれば思い出いっぱい作れるよー?」
「ははは、ミクらしい考えだな。しかし、俺もこの体じゃその思い出を見ることすら叶わんぜ」
「だいじょぶだよー、寿命まで1年あるんだし、そのうち方法思い付くんだもんー><」
「……そうだといいな」
ミクはそう言うと仏壇の前に座り、線香を立てた。そこにはじいちゃんと俺の遺影が満面の笑みでミクを見守っていた。
了
11/23
マスターと初音ミクのショート・ショートです。
前編と後編の二部構成となっています。
初音ミクという楽器が発売されてから十数年後、ロボットはほぼ完全な精度で人間の心を再現できるようになっていた。
その技術を応用して電子楽器としてではなく、実在の人間型機械として初音ミクは再び発売されていた。
しかし彼女は僅か五年で寿命を迎えるという、残酷な運命を課せられていた。それにもかかわらず、彼女は
それを少しも気にすることもなく、短い間に一つでも思い出を増やそうと、マスターへ満面の笑顔を見せてくる……。
そんな世界でのお話。
いつぞやにエロパロ板のボカロスレに投下したものです。原文ママではなく、微妙に編集しています。
エロ要素は皆無なのに何でエロパロに投下したのか、自分で投稿しておきながら良く解っていない 'A`
コメント0
関連する動画0
オススメ作品
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)

時給310円
Lyric&song by 雪氷スピカ
【歌詞】
お出かけの支度です 気分は上向きです
今年干支は午です 君思うは常なのです
マグカップを買います もうすぐ誕生日の
お祝いのためにです 今年ひとつ増えます
いつまで待っても 渡せずいます
君は今どこにいるのです?
僕はもう君に会えないのです?
楽しく...君と共に

雪氷スピカ
ゆれる街灯 篠突く雨
振れる感情 感覚のテレパス
迷子のふたりはコンタクト
ココロは 恋を知りました
タイトロープ ツギハギの制服
重度のディスコミュニケーション
眼光 赤色にキラキラ
ナニカが起こる胸騒ぎ
エイリアン わたしエイリアン
あなたの心を惑わせる...エイリアンエイリアン(歌詞)

ナユタン星人
おにゅうさん&ピノキオPと聞いて。
お2人のコラボ作品「神曲」をモチーフに、勝手ながら小説書かせて頂きました。
ガチですすいません。ネタ生かせなくてすいません。
今回は3ページと、比較的コンパクトにまとめることに成功しました。
素晴らしき作品に、敬意を表して。
↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲

時給310円
眠らない夜 ネオンの道
鼓動は既に 加速中
未来の言葉 分からなくて
それでも前へ 進める気がした
風を切る音 熱くなる
ハートはもう オーバードライブ
止まる理由 見当たらない
今この瞬間 信じたい
スピードはもう 限界超えて
リアルと夢 混ざり合う...音速で駆け抜けて feat.初音ミク

☆Asura☆花蓮
8月15日の午後12時半くらいのこと
天気が良い
病気になりそうなほど眩しい日差しの中
することも無いから君と駄弁っていた
「でもまぁ夏は嫌いかな」猫を撫でながら
君はふてぶてしくつぶやいた
あぁ、逃げ出した猫の後を追いかけて
飛び込んでしまったのは赤に変わった信号機
バッと通ったトラックが君を轢き...カゲロウデイズ 歌詞

じん
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想