山には熊がいて、この村にも頻繁に出没している。
そのせいで、山はおろか村の外にもろくに出れないのだと。
「すみませんね…わざわざ来てくださったのに」
「気にしないで下さい!私も行けって言われたら、震え上がってしまうでしょうから!」
税から逃亡していたころ、農業仲間と熊を恐れていた事を思い出す。
「…面白い」
女はクスッと笑いを漏らす。
「せめて、ここの美味しい野菜でももらっていってくださいな」
同じ野菜でも環境の違いから味もまた違うだろうと、澄兵衛はほくほくする。
「ありがたくいただきます」
「ええ、どうかたくさん。熊の神様だってお気に入りの味なんですから」
あ、熊の神様
澄兵衛が聞き出そうと口を開きかけた時、女が口を開いた。
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