≪ストラトステラ 後編≫




 祝福の鐘に到着した時には、街は淡い黄昏に染まっていた。
 ビルが、道が、車が、山が、空が、朱色に染まっていく。
 空にはひときわ輝く星が一つ、浮かんでいた。

「まさかほんとうに来ることが出来るなんて――」

 ステラは泣いていた。
 僕はそれを見て、泣きそうになっていたのを堪えた。
 そして、ステラは微かに笑い――祝福の鐘に手をかけた。
 街に響き渡る鐘の音は、透き通るような音色だった。
 僕は二度と忘れない――その鐘を鳴らした、瞬間を。
 そして――空に輝く星は、流星のように落ちた。











 次の日、彼女は眠るように息を引き取った。














 彼女が死んでもなお、僕はステラの存在を忘れたくなかった。
 それほど、僕の中でステラは大きな存在だった。
 ステラの墓は、教会に建てられたらしい。それは彼女が生前から要望を出していたらしく、それが叶った形になるのだという。
 ステラ――僕にとっての星。
 それが彼女だった。
 彼女がもしも世界を愛していたら――彼女は死ぬことは無かったのだろうか?
 そんなことを、考えていた。
 彼女の生きていた証を見て、悲しくなるのは確かだ。
 けれど僕がここに居るのは、彼女の証を覚えていたかったからだと思う。
 あなたが嫌った世界も、僕は愛していた。
 あなたが嫌った世界を、僕はこれからも愛し続ける。
 もし、あなたがまたこの世界にやってくるときが来たら――それまでには、この世界を愛してもらえるように。少しでも変わってくれるように。
 だから、今は君が居たことを、確かめさせてくれ。
 僕は前に進まないといけない。
 でも、君が居たことを確かめる――それだけで僕は、君が居ない闇のなかでも、何とか笑えるはずだ、と僕は思うんだ。
 だから、だからね。









 さようなら、ステラ。









 僕は墓前で呟いて、踵を返した。

「――サヨナラ」

 背後で彼女の声が聞こえて、僕は再び踵を返した。けれど、そこには誰も居なかった。
 さようなら。
 もう一度僕はその言葉を言って笑顔で立ち去った。
 僕は、ステラの前では、泣かない。
 泣くと、ステラが心配するから。
 だから僕は、そのまま、一歩前に足を進めた。


<終>

ライセンス

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【二次創作】ストラトステラ 後編

閲覧数:237

投稿日:2015/12/12 16:20:48

文字数:989文字

カテゴリ:小説

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