この作品にはグロテスクと思われる表現が含まれております。
苦手な方は注意してください。


昔から、絵を描くのが好きだった。
何も思わず、ただ絵を描いていた。
賞を取ったりすることもあったけど、それは人には理解されなかった。

「色がおかしい」

よく言われる言葉。
空を緑で、人を赤で、地面を黄色で描いていたから、そう言われるんだろう。
人には理解されない。
でも別にどうでもよかった。
絵を描けさえすれば、それでよかった。
そのまま時間は流れても、僕は相変わらず絵を描くのに夢中な日々。
変わったのは、カラーから黒白に変えたこと。
ただ、どんな時でも敵はつきもの。
「おーい、こいつまた何か描いてるぞー」
「……」
いつものように、いじめっ子が僕をからかう。
「隠してないでみせろよ!」
「あっ…」
隠そうとしたノートを、無理やり奪われた。
「今日の内容はー…」
いつもこんな感じ。
同じ繰り返しのつまらない日々。
溜まりに溜まったものは、僕を壊していく。
いっそ、物語の中に入れたらいいのにな。
僕がいつも描いている物語のような。
勇者が敵を倒して、姫を救い出す、そんな物語。
「聞いてんのかユウヤ!」
…ああそうか。僕は勇者なんだ。
彼らは敵。
勇者が倒さなきゃならない敵、なんだ。
そうだ、そうだったんだ。僕がいる現実はこっちなんだ。
持っていたカッターを振りかざす。
「テレレレッテレー、勇者は敵を倒した…なんてね」
なんだか敵が騒いでいるけどまあいいや。
僕のすることはただ一つ、リーダー…いや、魔王を倒すこと。
……もう、いわゆる城の周りの敵は全部倒した状態。
次に行こう、魔王を倒す前に、どこかにいるお姫様を探しに。


数日後、敵を数体倒し、武器や防具や薬などのアイテムをゲットした。
でもゴールにはまだ程遠い。
なんて思っていたその時、女の子の悲鳴が聞こえた。
直感でその声がする方へ向かうと、女の子が数人のガラの悪い人たちに絡まれていた。
理想のシチュエーション。
にやりと笑いながら、持っていた武器で敵を倒す。
「あ、助けていただいてありがとうごうざいます!でも…ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
「…そうなの?」
「そうなのって…」
彼女は下を見る。僕も見る。そこは黒がいっぱい。
「…僕は色が認識できない」
「え?」
「そういう病気。世の中なんて黒と白さ、僕にはそう見える。逆に何でみんなそう見えないのか不思議なくらい、これが僕の当たり前」
「そう…ですか」
しょんぼりした顔で、彼女は僕の頭を撫でる。
「…なんで?」
「いや、ただあなた」
なんだかパトカーのサイレンのような音がする。
「ごめん、移動する」
「え…じゃあ、一緒に行っていいですか?」
「…いいの?」
「あれです。家出中ってやつなので、ちょうどいいんです!」
「そっか、じゃあ行こう。君、名前は?」
「ヒメカです」
「ヒメ…」
ああ、なんて運命的なんだろう。僕に必要な姫が現れた。
「僕はユウヤ。さあ行こう」
姫の手を取りその場をあとにする。
「テレレレッテレー、姫が仲間になったー」
「なんですかそれ?」
「ただの独り言だよ」




警察がいるため、路地裏に避難する。
「これからどこに行くのですか?」
「ホテル」
「ふぇ!?」
「普通のホテルだよ、お姫様」
「あ、ああ、なるほどです。い、いや、分かってましたよ普通のホテルって!」
なんだかアワアワしている。可愛いな。
「バレたら逃げればいいだけさ、さあ、行こう」
こうして僕たちの逃亡生活は始まった。


そしてそれからいろいろあって、魔王との最終決戦。
武器も装備も完璧。何も問題はない。
舞台は誰もいない廃墟。呼び出して、魔王が参上。
「何のようだ、ユウヤ」
「ユウヤじゃないよ。勇者だよ。勇者のすることは一つ。魔王を倒すことさ」
「は…ははっ!ユウヤが勇者でマオが魔王か。おもしろい。……なあ、俺は誰だ?」
「魔王。僕の、勇者の敵」
「そうか…」
色のせいでよくわからないが顔が歪んでる?
まあいいや、僕には関係ない。
「おまえは何もわからないのか?」
「何がさ」
「…いろいろだよ。昔のこととか、逆転していることに」
「?なにそれ、意味わかんないよ。ああ、ダメだ。ダメだよ勇者。魔王の言葉に耳を傾けちゃ、惑わされちゃダメなんだ」
ブツブツと言いながら、武器を振りかざす。
「……何もわからないんだな」
それが魔王の最期の言葉。意外とあっけない。
でもわからない。なんで魔王が頬に触れたのか。
わからない。魔王がどうなったのか。色が認識できないから、僕の世界は黒と白だから。
だから何度も振り下ろす。黒があふれる。それしかわからない。
「……もういいかな」
これだけぐちゃぐちゃならば魔王は復活できないだろう。
「…終わったよ、お姫様」
後ろの方の柱に隠れていた姫がこっそり出てくる。
「……このあと、あなたはどうするのですか?」
「帰るんだよ」
「どこにですか?」
「秘密」
「?よくわからないですけど…」
お姫様は僕の懐へ飛び込む、と同時に、体に電流が走る。
手にはスタンガン。
「どうして?」
「ミオさんに…言われたんです。「もし俺がダメだったら代わりにあいつを止めてくれないか?」って。そしてその時にこれを…」
「ミオ?」
ミオって誰?その言葉は意識と共に消えた。







目が覚めれば白い天井。腕には黒い何か。
横には知らない男の人。
「やあ、目が覚めたようだね。おじさんはこういう人だよ」
なにか細長いものを僕に見せるけど、わからない。
「詳しくは署で聞こうか」
よくわからない。でも分かることがある。
これでゲームーバーなんだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

クロシロゲーム

コラボ用、歌詞化曲化など募集中です。

http://piapro.jp/t/Q8hB

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投稿日:2013/08/05 20:45:18

文字数:2,355文字

カテゴリ:小説

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