何だろう、この組み合わせは…俺と、闇月羽鉦と、レンチでフロント割った女と、逃走劇のついでにいきなりプロポーズかました日本人形みたいな女…。
「はふぅ…申し訳ありません。お茶までご馳走に…。」
「私迄ごめんね、お兄さん。」
「いや…良い…えっと…落ち着いたかな?」
「申し遅れました、私紫陽香玖夜と申します。」
「すんごい名前~可愛い~。」
「えーっと…事情を聞かせて貰えるかな?」
「は…はい…。」
既に顔赤らめてる…。ああ、もうダメだこの子…すっかり自分を助けに来たヒーローか王子様にでも見えちゃってるんだろうな。まぁ確かにさっきは何か色々凄かったけど。
「私借金のカタにあの人と結婚させられるのが嫌で家出したんです。」
「もうちょっと引っ張れよ!」
「そこはツッコむんだ…。」
長々と身の上話が始まるのを覚悟していたのにいきなり結論を簡潔に述べるのか!何て期待を裏切る女だ!
「さっきのあれ、老舗洋菓子店桂木堂の副社長だな、確かあの人は独身だったと
思ったけど…それにしたって ちょっとキツイな。」
「私の家も『紫陽花庵』と言う和菓子屋なんですが、数年前に桂木堂の新店舗が
近くにオープンしてから売り上げがさっぱりで…その内にどんどん借金が嵩んで
いたみたいで。」
「じゃあいつらのせいで香玖夜ちゃんの店潰されそうになったんじゃないの?
それって。」
「まぁ結果だけ見たらそうだろうな。」
「最近資金繰りも苦しくなって、そしたらあの人が、私が16歳になったら借金を
肩代わりするから嫁に欲しいって言い出して…怖くなって私だけ叔母さんの所に
居たんですけど、そこにも連れ戻しに来て、私もう怖くなって…。」
つまりあのオヤジは多分中学生の時からこの子に目を付けてて16歳になったんでここぞとばかりに手を出そうと根回し…うわ、キッツイな~!もう人間って汚い!
「だけど嬉しかったです…あんな風に助けて貰ったの私初めてで…。」
「えっ…?」
「凄く素敵でした…。」
「いや、さっきのは正直成り行きと言うか、面倒だったんで投げたと言うか、
素敵とかそう言うのとは無縁と言うか、ちょっ…待った待った!近い近い近い!」
明らかに動揺してるな…あんな可愛い子に赤らめた顔と潤んだ目で迫られたら確かにクラッとするかも知れないけど、現状周りの客が大注目してかなり恥ずかしいんだよなぁ…。
「私じゃダメですか…?」
「そう言う問題じゃな…ちょっ…!!待っ…!!」
「かぐやちゃん?わわわわわっ…!!」
俺やレンチ女を始め店中の客が見てる中、彼女は闇月をソファに押し倒して熱烈なキスをした。
BeastSyndrome -56.かぐや姫-
月には帰りません
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