ふと寝付きが浅くなり、目が覚めた。さっきまで夢を見ていたような気がするけれど内容が思い出せない。もやもやしながら体を起こすとルカは横にはなっていたけれどしっかり目を開けて携帯電話をいじっていた。
「あ、おはよう。気分はどう?」
「おはよう。悪くないけど寝起きだからあんまりぱっとしないかな」
「そっか。朝ご飯今トーストしかできないけど食べる?」
「うん食べる。ありがとう」
そういうとルカはパチンと携帯を閉じてキッチンへ向かった。布団はそのままだからわたしはどうしていいか迷ってそこにとどまっていた。
「ミク? パン焼けたよ、食べないの?」
「食べるけど、布団このままでいいの?」
「いーのいーの。後であたしやるし、まずは腹ごしらえしましょ。パンにマーガリンつける? それともジャム?」
ルカはマーガリンといちごジャム、マーマレードをテーブルに並べながらわたしに聞いた。私はいちごジャムの気分。とジャムの瓶を手に取った。
ルカはマーガリンを薄くのばして塗って、口にくわえながらパックの紅茶を冷蔵庫から取り出した。
「ミクは何飲む? 今麦茶と牛乳とアップルティーしか無いけど」
「牛乳がいいな」
「はいどーぞ」
青のグラデーションが入ったグラスに牛乳がふちぎりぎりまで注がれる。こぼれないようにわたしは受け取ってすぐ少しグラスの牛乳を口に入れる。
ルカはパックから直接ラッパ飲みして、「口つけてないからセーフなのよ」と笑った。
「ごめんね。卵買い忘れちゃってて、パンしかなくってさ。しかもひとり暮らしの食パンは賞味期限短くってすぐかびちゃうのよね~」
「大丈夫。わたし朝ご飯そんなに食べないから」
「え~、しっかり食べなきゃ駄目よ。あたし前朝食抜きで朝会の時貧血で倒れたりしたんだから!」
「抜いてはないから平気かな」
ひとり二枚のトーストを食べ終わって、ふたりで協力して片付ける。すごく落ち着く空間で心に波がない。
「さてと、そろそろホームシックじゃないかなあ。この後帰る?」
「うぅん・・・・・・」
「大丈夫。あたしがついてるじゃない。最後は親のところへ帰ってあげればいいの。終わりよければすべてよし! 終わりまでの過程がひどくったって、最後笑顔で帰れればどうだってよくなるもんなのよ」
「そっか・・・・・。じゃあわたし帰る」
「よおし、じゃあ着替えて歯磨きしてゴーね」
ルカは手を拭き、洗面所に行き歯を磨きながら新品の歯ブラシを持ってきてくれた。
「はみはひしないほ、ふひふはいよ~」
「何言ってるかわからないよ。でも口くさいのは困るから借りるね」
「はひほ、わはっへふんはん」
歯磨き粉も貸してくれて二人で並んで歯磨きをして、ルカはチュニックとジーンズに着替え、わたしはルカと会ったときのワンピースに。髪を簡単に整えて二人で家を出る。
「最寄り駅はどこ? あたしが電車賃だすよ」
「そんな、悪いよ」
「いーから子どもは大人に甘えていなさい」
「じゃあジュース買うから飲も?」
「いいよー」
「あのね、○○駅が近いの」
「ひゃー、結構遠いねえ」
駅までそんな会話をしながら歩いていき、私は片道切符、ルカは往復切符を買う。
「ねえルカ。これからもちょくちょく会ってね、メールしてね」
「うん」
「泊まりに行ったりなんかもしようね」
「楽しみだね」
電車に揺られて、外の景色が華やかな街から田畑の綠、住宅街へと変化していく様を眺めながら言う。絶対ルカの方は見ない。
電車が止まってプシュウとドアが開く。そこでわたしたちは降りていく。
「ミクの家って駅から遠い?」
「わかんない。歩いて5分以上8分未満かな」
「なんだ結構近いじゃないの」
改札口に切符を吸い込ませ、久しぶりの地元に胸の中がぐるぐるする。
さっきまで前を歩いていたルカにかわってわたしが先を行く。
もうすぐ私の家が近い。
「もうすぐ着くよ」
私がそういうと、遠くからわたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。
ミク、ミク。これはきっと両親の声。
ミク姉! 近所の双子のそろった声が聞こえる。
「ミク、心配されてるじゃない。早く行きなさい。あたしはご両親に説明するからさ」
そっと目線で促され、わたしは走った。みんな、ただいま。
「パパ! ママ! ただいまあ!」
「ミク!」
家の前でうろうろしていたパパがわたしに気がつくとママを呼ぶ、それに双子ちゃんが気づく。
「みんな心配していたんだぞ。書き置き一つだけ残して、どこ行ってたんだ?」
「もう、ママは心配で心配で・・・・・・」
わたしが黙り込んでしまうと追いついたルカがわたしの肩を抱く。
「おはようございます、はじめまして。ミクさんの友達です。昨日はわたしの家でお泊まり会をしてました。ミクさんは悪くないですよ。わたしがうっかり連絡を忘れてしまって。私の家にいる間、ずっとご両親が怒っていなければいいなあと不安に思われていたみたいですよ。ミクさんは怒らないでください」
「お友達・・・・・・、お名前は?」
「ルカといいます」
「ミク、パパは書き置きだけしていきなりどこかへ行ったことに怒ってるだけだ。お泊まり会は別に悪いとは言わないが、泊まりに行くならちゃんとかきなさい」
「パパ、もうけんかしてない?」
わたしはぎゅうと拳をにぎる。パパは目を大きくした後、ほほえんだ。
「おまえがいなくなって二人で探しているうちに、なんてばかげたことやってるんだろうって我に返ったさ!」
ルカはそっとほほえんで口だけで何か言った。
よ、か、った、ね。
「ルカさん。うちの娘がご迷惑かけました。これからも面倒見てやってください」
「いえいえ、迷惑なんて」
「ありがとうございました! えへへ」
「あ、あたしそろそろ仕事なの。ごめんね。ミク、バッグのポケットに連絡先入ってるからいつでも連絡してね!」
そういってルカはそっと離れていった。
パパとママはわたしが帰ってきたことに安心しすぎてルカにお礼を言うのをすっかり忘れてる。
ちいさかったわたしの世界が、大きく広がって、幸せ色に染まっていく。
――ありがと、ルカ。
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