※※投稿作品よりシリーズの「設定」を一読してからの閲覧をオススメします。
3.初音ミクの生徒会―ゴールデンウィーク計画
鏡音リン・レン、一年の双子を生徒会に迎えてから二週間。迫り来る五月。そして、学生にとって五月の大イベントと言えば、
「ゴールデン、ウィ――――――クっ!!!」
ぐわっと両拳を突き上げて、生徒会室の窓から青々とした空に向けてリンが吠える。
「ど、どうしたの? リンちゃん」
「っていうか、紙が飛んじゃう。窓閉めてよ、リン」
ビクリと肩を振るわせるミク。その向こうで、風に浮きあがった書類を抑えるレンの姿。
む、と頬を膨らませながらも、レンに言われた通り、開け放たれた窓をパタン、と閉じる。
「それで、何だっけ? ゴールデンウィーク?」
「そう! ゴールデンウィーク! もうすぐでしょ?」
窓際から不貞腐れ顔で戻って来たリンに、カイトが苦笑い混じりに、彼女の先の言葉を繰り返す。途端、リンはパっと目を輝かせて、気分も急上昇。
「ゴールデンウィークではしゃぐなんて、まだまだ子どもね」
ふ、っと呆れた息を吐くルカ。途端、急上昇した気分は急降下。
「何よ、たった二つしか年違わないのに、子ども扱いしないでよ!」
「あら、二つって結構違うわよ。おチビさん?」
そう言って、ルカはリンの頭をポンポン、と叩く。
スラリと背の高いルカに見下ろされ、その身長差をはっきりと示されたリンは、ムキーっ!!と歯を剥き出した。
「うるさいわね! あたしはまだまだ発展途上中なのよ! ほっといて!」
「ふーん。頑張ってね、牛乳奢ってあげるから。―――カイトが」
「え、俺!? また俺?!」
とんだとばっちりをくらったカイトは、彼女たちに背を向けてこっそりと財布と相談。そして、くぅっ、と涙を飲む。ポン、と肩に置かれたミクの手がとても暖かかった。
「そんなんだから小さいんだよ、リンは」
「たった3cmで偉そうにしないでよ」
「4cmだよ。それに、僕男の子だからまだ伸びるだろうし」
「アンタが伸びるならあたしだって伸びるわよ!」
「いやいや。双子だからって、そこはイコールで繋がらないでしょ。男女の差だよ」
「男女差別反対!」
「遺伝子的問題」
トントン、と書類を机で揃えながらバッサリとリンの言葉を断ち切る。
二人の間で、ミクがオロオロと長い青緑の髪を揺らし、
「え、えと、二人とも落ち着いて!」
と仲裁に入れば、
「僕は落ち着いてるけど?」
「「は」って何よ、「は」って! それじゃあ、あたしが落ち着きないみたいじゃない!」
「リンが落ち着いてるって言うなら、世界の大半の人は死んでるも同然だね」
「ムキーっ!! 何よ、何よ! レンのバカ!」
逆に油を注ぐ結果に。
「はうぅ~……」
はじめから然程なかった生徒会長の自信をさらになくし、部屋の隅で影を背負う。その肩に、先のお返しとばかりに伸ばしたカイトの手。しかし、届く前に、彼女の細い肩にはルカの手が置かれた。
行き場を失った手が、空しく宙に留まる。
「それで、あなたは何が言いたいのよ、リン」
この生徒会で、話を元の道に戻すのはルカの役目となっている。
呆れ混じりの声に、はっとしたリンは、
「ひょう! ひょうひゃっひゃ、ひょうひゃっひゃ!」
レンによって横に引きのばされた口元をもごもごと動かして、不安定な発音で「そう! そうだった、そうだった!」と声を上げる。
同じく掴んでいたレンの頬を精一杯引っ張った後にバチンと離せば、レンから短い悲鳴があがり、リンの頬から指が離れた。
「ねぇ、せっかくだから、皆で遊びに行こうよ! ホラ、何て言うんだっけ? もっと仲良くなりましょーみたいな集まり……、そう! 合コンよ、合コン!」
「合コン?」
「違うから、ミク姉。たぶん、親睦会のことだから」
きょとん、と首を傾げ、リンの言葉を繰り返すミクに、大袈裟に肩を竦めて首を振り、訂正を入れる片割れ。
「親睦会かぁ。もう十分仲が良いと思うけど」
と、カイト。
頬杖をつき、前に落ちてきた青いマフラーの先をひょい、と後ろへ放る。
「そうだね。でも、私はやりたいなぁ。皆一緒って、いいよね」
「ですよねー」
生徒会長であるミクが目を輝かせて言えば、ぽやん、と花を飛ばし、興味薄の態度を一転。
「単純」
そんな青い彼に、ピンクの彼女が隠すことなく呆れた溜息を吐く。
「せっかくのゴールデンウィークだよ! 光輝くゴールデンウィーク! 学生の味方、救世主! 遊ばなきゃ損じゃん!」
目を炎を灯し、熱く語るリン。
「だから、皆で遊びに行こうよ!」
机に手をつき、身を乗り出して訴える。
「判断は任せるわ、生徒会長」
「はぇっ!? わ、私?」
決定権は、ルカに一言でミクに委ねられた。
「い、いいの?」
あわあわと役員を見渡す。しかし、返って来るのは無言の眼差し。
眉を垂れ、困ったとでかでかと書いた顔で腕を組み、うんうんと唸る。一人の判断で決めてしまっては迷惑にならないだろうか、と気にかけ、なかなか決断を下せない。頭を右へ左へ傾け考えに考えた結果、
「一緒に、ゴールデンウィークの思い出作ろう!」
うずうずと胸の奥で騒ぐものを抑えられなかった故の決断。
「おぉっ!」
リンとカイト、二つの拳が、生徒会室の天上を突いた。
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