両親と手を繋いだ記憶が無い。一緒に寝たとか、一緒にご飯を食べたとか、一緒に何処かに行ったとか、周りで聞く『家族』の話を聞いてもよく判らなかった。覚えているのはたった一つ、頼流がずっと守ってくれた事だけだった。だけど薄れる記憶の中で、たった一つだけ、刻まれる様に何度も繰り返し、繰り返し、出て来ては俺を苦しめる記憶…。
『…ぁああん…!うぁあああぁん!いたい…いたいよぉ~~!!いたいよぉ~~!!』
『大丈夫だ、続けろ。』
『いたいよぉ~~!!』
『止めろ!止めろよ!!流船…流船!!』
『いたいよぉ~~!!』
『流船…!!』
白いライトと、冷たい金属の感触、スピーカー越しの無機質な声が、ただ痛みを齎した。痛くて、寂しくて、恐くて、何も判らないまま、只泣き叫んで…。
「う…ぐっ…!あ…!うぅっ…!」
「流船君…?どうしたの?傷が痛むの?」
「…めて…助け…!痛い…たす…け…!」
「大丈夫?!ねぇ…!!流船君!流船君!誰か…幾徒さん…呼んで来…!」
「…行かないで…。」
「流…っ?!やっ…!放し…!」
「行かないで…。」
一人になるのが堪らなく恐かった。しがみ付いて、縋り付いて、必死に助けを求めるしか出来なかった。
「流船君…。」
「…え…?」
震える声に目を開いた。目の前に涙で一杯になった深い緑の瞳があった。
「芽結…?…っ!!ごめ…!俺…!!」
反射的に体を起こした。見ると芽結の両手首に赤い痕が残っている。明らかに力任せに押さえた痕だった。
「ごめん…芽結…。ごめん…。」
「…恐い夢見たの…?凄く、苦しそうにうなされてた。」
「ん…多分、昔の夢…ちっちゃくて覚えてないけど…。」
「…大丈夫…?」
「…芽結、言魂撃って良いよ。気絶でも睡眠でも…何でも良いから眠らせて。でないと…
俺またさっきみたいに酷い事するかも知れないし…。」
恐怖が打ち消せない…何時、何処の物かも判らないおぼろげな記憶がずっと俺を刻み続けてる…。眠りたい…何も判らなくなる程眠りたかった。少しの沈黙の後、背中にトンと手の感触が降りた。
「…撃たないよ。」
「え?」
「流船君が眠れるまで此処に居る。」
「…酷い事しちゃうよ?」
「その時はちゃんと言魂撃つ。」
「そうして…でないと…。」
「ん?…っ!」
「…縋りたくなる…。」
全て壊したくなる程に…。
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