第七章     

ガチャ…パタン。自分の部屋に戻った俺は玄関で膝を抱え、号泣していた。「なぁ、紗矢…俺はどう生きたら良い?…教えてくれよ…お前の声で…お前の言葉で…」一頻り泣いた俺は一旦落ち着こうと思い部屋の中へと入って行った。煙草に火を点け、紗矢の写真の前で煙越しの恋人を見ていた様に思う。
煙草の煙越しの恋人へと俺は話し掛け続けていた。「俺さ…紗矢、お前が居なくなったあの日さ…ベランダで煙草吸っててさ…お前と似た様な香りが隣からして…足が見えたんだよな…それで、思わず声掛けちまったっつーか…助けたいとかそんな感情じゃなかったんだけどさ…何だろな、お前が重なって失いたくなかったからかもな…」…「…今日もさ由佳里さんて言う人なんだけど…なんっつーか不思議な人でさ…俺、消えてもいーかなって思った時に察してくれたんだよな…」…「腕掴んでくれてさ…何かすげー不思議な感覚っつーかさ…紗矢は嫌か?…俺の話聞いて嫌な気持ちになってねーか?」…「正直な所…俺多分由佳里さんに依存してるのかもしんねーな…」そんな話をしながら煙草の煙がふわっと揺れた気がした。その煙に答えるべく「紗矢…ヤキモチ妬いたか?…俺は、お前を一生忘れたりしねーよ、っつーか忘れられる筈ねーじゃん…これは約束する…安心しろよ?」…紗矢は自分の事を責めがちだったな…きっと「…悠?もし悠に好きな人が出来るのであれば、私の事を愛してくれた精一杯の愛を…悠のあったかい愛情をその相手に与えてあげて欲しい…私が先に死んじゃったのが悪いんだから、ね?」…紗矢なら、俺の大好きだった笑顔でそう言ってくれる様にも感じた。…お前はそーゆーすげー優しい奴だもんな…「ありがとう、紗矢…」俺は、甘ったるいカフェオレを飲み、少し落ち着いてきた気持ちに、安心感を抱きながら「さて、風呂入るかな…」そんな事を呟いて風呂へと入った。温まっていく身体に安堵感さえ覚えていた。少し長めの髪を乾かし、鏡に映る自分の眼に光があるようにも見えた。恋人が好きだと言ってくれていた香水を纏い、ベッドへと潜り込んだ。眠りへと落ちたのは、陽の上り始めた5時を廻る時間帯だったのを覚えている。

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深淵の中の蝶

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投稿日:2025/01/16 06:12:27

文字数:906文字

カテゴリ:小説

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