昔から、「今ここで何々をしたらどうなるだろう」と考えることが多かった。
目の前の人を突然殴ったら?大切なお皿を叩き割ってみたら?ナイフを突きつけたら?
実際にしてみたことこそ無いものの、高校を出たばかりの私の頭の中は、そんな「if」の思考で満ち満ちていた。
虫も殺せないくせをして、一丁前に人を傷つける妄想を展開させるのだ。
ひどく矛盾している。
何かの病気ではないかと調べたこともあったけれど、出てくるのは「加害脅迫」とかいう強迫観念と不安感を合わせたような病気の症例ばかりだ。不安感はない。だけれど無意識の私が、脳内では平然と何かを、誰かを傷つけようとしていた。
ある日、私は何ともなしに最寄りのコンビニエンスストアを訪れた。
飲み物でも買おうか、くらいの気軽さであったにも関わらず、それは唐突に始まった。きっかけは商品の陳列をする店員を見かけたことからだ。私と同年代くらいに見えるあたり、アルバイトだろうか。立ったりしゃがんだりと忙しなく陳列棚を網羅していく彼を見て、ふと「彼の目の前にある商品を、すべて床にぶちまけたらどうなるだろう?」という妄想に囚われた。
結果は勿論分かっている。きっと彼は唖然とした表情を浮かべたのち、私を激しく叱咤するだろう。周りの客も騒ぎを聞きつけて野次馬と化すだろうし、最悪警察を呼ばれてしまうかもしれない。その間、私は何も言葉を発さない。いや、発せない。こうなることが分かった上での行動であったにも関わらず、私の頭は混乱し、後悔と自責の念に押し潰されるに違いない。ただただ狼狽える私を見た彼がどのような行動をとるかは分からない。しかし間違いなく私は二度とその店を訪れることはできなくなるだろう。
ここまでを、忙しなく動く店員を見かけたその一瞬で逡巡し、そして一蹴する。首の後ろで結わえた髪を一撫でし、気付かれないよう小さく溜息を吐いた。そんなことをしたところで誰も得をしないし、何より行動が奇天烈すぎる。けれど実際に行動に移さないあたり、まだマシと言えるのかもしれない。
私は店員の横を通り過ぎ、目当ての飲料を手に取るとレジへと向かう。レジに店員の姿はなく、つらりと店内を見渡すと先ほどの店員と目が合った。
彼はやや慌てた様子でレジへ入ると、バーコードリーダーを手に取り清算を始める。お決まりの接客マニュアルを軽く受け流しながら小銭を支払うと、彼は人のよさそうな笑みを浮かべてそれを受け取った。
ありがとうございました、という言葉を背に受けて、私は店を後にした。
バーコードリーダーを握りしめた彼の口から小さく溜息が漏れたことに、私は気が付かなかった。
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