「………」
「…うさぎ、か?」
「ただのうさぎではありませぬ!女王さまの使いのうさぎでございます!」
「うさぎがしゃべった!」
「二本足でも歩けますぞ!」
えへんと胸を張ったのは緑色のチョッキを着た白うさぎだった。
胸を張ったついでに後ろに倒れそうになっているところを助けながら、レンは至極当たり前の質問を口にした。
「女王の使いが俺たちに何の用だよ?つかメイコ姉やカイトやミクをどこにやったんだよ!」
話しているうちに怒りが沸いてきたのか、今にもうさぎに掴み掛からんばかりのレンを抑えて、あたしはうさぎに話し掛けた。
「ねえうさぎさん、招待状を持ってきたんでしょ?」
「招待状?」
あたしが言うと、うさぎは自慢げに頷いてみせる。
そして、足の間から(なんか嫌だな)白い封筒を取り出すと、うやうやしくあたしたちに差し出した。
「何だこれ…」
「はい、城からの招待状でございまする!とうとう城ができるまでになったのです!わたくしは嬉しいのです!一番初めのアリスは道を開き、手を血で汚しましたが…」
「レン、開けてみよ」
あたしが言うまでもなく、レンは封を切っていた。
「…ハートのトランプ?」
出てきたのはハートのトランプ。ただし。
「このハート、ミク姉のマニキュアで描かれてる」
「マジ?よく分かるな」
「女同士だもん。ってことは、この招待状は」
「「ミク姉からのだ!!」」
「…ついには女王が誕生した!後は…」
「おい、うさぎ」
そこではじめてうさぎは、あたしたちが自分の話を聞いていなかったことに気付き、頬を赤らめた。
「何でございましょう?」
「俺たちはどうやって、城へ行けばいいんだ?」
「ああ、そのことでございますか!それは簡単でございます」
うさぎは首にさげていた懐中時計をぱちりと開いた。
「もうすぐ、あなた方の扉が現れます」
うさぎの言った通り、すぐに新しい扉が現れた。
黄色い扉。あたしたちの扉だ。
走って扉へと向かうあたしたちを、うさぎが引き止めた。
「扉に入る前に、わたくしの口上をお聞きくださいませ」
「?あんたが案内してくれるんじゃないの?」
レンが聞くと、うさぎはまさか、と口元を歪めた。
さっきまでのどこかとぼけた表情とは違う、背筋をぞっとさせる顔。
「あなた方が、自力で辿り着かなければ意味がございません。あなた方は四番目のアリスなのですから」
「四番目の…アリス?」
うさぎは問い掛けには答えず、唐突に口上を述べてから、時空の歪みに捻れて消えた。
「夢の中へようこそいらっしゃいました!
狂った世界のおかしな国へ、真っ赤な絨毯踏んでいらっしゃい。
赤と青と緑と黄色、混ざって溶けたら何ができましょうか?
どんな世界ができましょうか?
歪んでしまった夢をどうぞ御覧ください!」
***
扉の向こうには、黒い森が広がっていた。
目の前には一本道。
周りの木に刃を入れたあとがあるから、きっとメイコ姉が通った道だろう。
あたしはレンとしっかり手を繋いで、森の中へと足を踏み入れた。
「リン」
「何」
「さっきから疑問に思ってたんだけど」
森の中に入ってしばらく、あたしとレンは大きな薔薇の木の下に腰を下ろして休んでいた。
薔薇の色は青。カイト兄は今どこにいるんだろう。
レンはいったん言葉を切り、あたしの顔をちらりと見た。
「リン、この状況について何か知ってるのか?」
あたしはレンの顔を見た。
「どうして?」
「いや、だってリン、まるで今までのことがあらかじめ起こる事、分かってたみたいだし、メイコ姉やカイトの扉がおかしくなったときも、ミク姉を扉の向こうに送り出すときも平然としてたし。
いつもだったら、こういう事が起きたとき、真っ先に騒ぎだすの、リンじゃん?
だから、おかしいなと思って」
「さっすがぁレン、名推理だね!」
「茶化すなよ、こっちは真面目に聞いてんだから」
レンが怒った顔をしたので、あたしは笑うのをやめた。
「……夢をみたんだ」
「夢?」
「うん。あたしたちが起きてから、黄色い扉が現れるまでの夢」
「つまり、さっきまでの出来事を、リンは事前に全部見ていたのか?」
「うん」
「じゃあ、なんで止めなかったんだよ!メイコ姉を行かせなければ…」
「あたしだってそう思ったよ!…でも無理だった。目覚める前に言われたんだ」
「何て?」
「『自分の番にならないと、何も変えられない』って」
「…んだよそれっ!」
レンの叫びは森に吸い込まれていった。後には不気味な静寂だけ。
あたしは急に怖くなって、ぎゅっとレンの手を握った。
あたしだって、メイコ姉の最後の笑顔をみて、胸が痛まなかったわけじゃない。
カイト兄の扉が血の色で彩られるのに、ぞっとしなかったわけじゃない。
嫌がるミク姉を無理矢理に扉の向こうに行かせたかったわけじゃない。
でも、ああしなきゃ、あたしたちの番は来ないのだ。
この奇妙な世界を抜け出して、またみんな揃うためには、あたしたちが正しい道を見つけなくちゃいけないのだ。
「レン」
「………」
「あたしたちが頑張れば、メイコ姉もカイト兄もミク姉も、みんな一緒に抜け出せるよ」
「……そんなの、できるかよ」
「できるよ!」
黒い森に、赤い道。ぽきり、ぽきりと変な形に折れ曲がった木が、今にもあたしたちに襲い掛かってきそうで、怖い。
「それともレンは、こーんなちゃちなダンジョンもクリアできないようなへっぽこ勇者になりたいの?」
「いきなりゲームの話かよ」
「アホレンには分かりやすい例えでしょっ」
「俺はアホじゃねー…」
「そーだっけー?」
「そーだよっ」
怖いけど、きっと大丈夫。
「…リン」
「ん」
「四番目のアリスだかなんだか知らないけどさ、こんな気味悪いところ早く突破して、頼りない兄弟たちに会いにいこうぜ」
「…うん」
だって、隣にはレンがいるから。
***
四番目アリスは双子の子。
好奇心から、不思議の国。
いろんな扉を潜り抜けて、
ついさっきやってきたばかり───。
この歌の続きは、皆さん御存じの事と思います。
双子のアリスもまた、不思議の国の出口を見つけることができずに、未だ夢の中を彷徨っております。
(カチリ)
さて、そろそろ時間のようです。
新しい扉が現れました。
次は貴方の番です、アリス。
さ、早く扉を開けて、不思議の国へお入りくださいまし。
(最も、出られるかどうかは、保障いたしかねますが。)
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