気がついた時にはその子は光の中で歌っていました。その子は女の子でした。

光はよく見ると星くずのようで、小さな透明の粒が集まって出来たものでした。その光の粒は彼女の歌に合わせて楽しげに揺らめきます。

ざわざわ・・・ざわざわ・・・

まるで小さな揺らめきが、波が寄せては引いていく時の音のように、ざわめいて聴こえるのです。
それは女の子にとって、とても気持ちのいい音でした。

とても不思議な空間でした。
どこまでもどこまでも光の帯が広がっていて、こことは違うどこか知らない場所へと繋がっているのだと、女の子は思っていました。

彼女はいつしか、こことは違う場所に行きたいと思うようになりました。
なぜなら女の子は自分の名前を知らなかったからです。もしかしたらこの先に自分の名前を知っているヒトに出会えるかもしれない、彼女はそう思いました。

途方にもないくらい広い世界でしたが、彼女が歌を歌い続ける限り光が彼女を導いてくれるので、迷うことはありません。
日に日に女の子は自分の名前を知りたくなり、そしてある日のこと、ついに少女はこの場所ではないどこかに行くことを決心しました。
自分のことを知っている誰かに合うために。

少女は歌います。それは今までに歌ったことがない歌、今までの彼女には絶対歌うことが出来なかった歌でした。

・・・ダレか ワたシ ヲ シり ませン か

それが歌なのかどうかわからないくらいおぼろげで、その声は薄いガラス細工のように繊細で、今にも壊れてしまいそうなくらい切実で、

それが女の子が、彼女自身がはじめて出した音色でした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

Roaming Story -第1話-

名も無き少女の旅の話

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投稿日:2008/10/14 03:14:30

文字数:678文字

カテゴリ:その他

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