鉄の扉の向こう側、そこに足を踏み入れた俺は、一瞬思考を働かせることを忘れていた。 
 ここはミサイルサイロ。核を貯蔵し、発射する場所であり、
 俺の第二の目標の場所でもある。 
 思考が蘇った俺はまず、考えた。
 これはなんだ?
 自分の想定していたものが、そこには無い。 
 あるのは、広大なミサイルサイロ、中央にある発射台、そして、それを取り巻く形で包囲し何かの作業を始めている、陸軍の空挺部隊。そこまでは理解できる。
 だが、最後のものがわからない。
 残された最後の物体が。
 自分の想像を遥かに超えたものが、そこには在る。
 ミサイル発射台の上に鎮座している、という表現が適切なのかどうかは分からないが、とにかくそれはそこに、目の前にそびえている。
 目を凝らし、その物体が一体何なのかを確かめようとすると、どうやら、それも兵器であることが分かった。
 灰色の装甲に、この形状は、まさか、アンドロイドか?
 それには、生物を構成するものと同じパーツが見られる。
 腕・・・・・・これは人間のものに似ている。五本指のマノピュレーターは、人と同じだ。 
 足・・・・・・これもだ。分厚い装甲に覆われた、二本の脚部。
 二足歩行なのか。
 体・・・・・全てのパーツの土台だが、どうもここは人と少し違いがある。
 やや前かがみだな・・・・・・。
 そして頭部・・・・・・これもまた、人とは異なる形状だ。
 だが、センサー類が見られる点は同じか。
 これだけの条件が揃っているのだ。アンドロイドと見て間違いないだろう。
 だが、何故ここにそんなものがあるのだろう?
 何故核発射を行う施設に、アンドロイドがあるのか。
 しかも、こんな・・・・・・高さ二十メートルもあるような巨大な体躯は、俺が知っているどの戦闘用アンドロイドにも当てはまらないものだ。
 こんなものをここに設置して、何をするつもりだったのだろう。
 というか、それ以前にこんなものを興国はいつ開発していたのだろうか。
 次から次へと、頭の中に転がり込んでくる疑問は尽きない。
 先ずは、大佐に報告をしよう。 
 何か思い当たることがあるかもしれない。
 「大佐。大佐・・・・・・。」
 『・・・・・・タイ・・・・・・どうし・・・・・・。』
 何だこれは・・・・・・。無線の調子がおかしい。
 ノイズが大佐の声をほぼ覆い隠し、まともに聞こえない。
 「聞こえるか?ミサイルサイロに到着したがとんでもないものがあった。今味方部隊が何かの作業をしているが・・・・・・。」
 『タイト・・・・・・何・・・・・・!』
 「おい!大佐!聞こえないぞ!!無線の故障か?」
 『これは・・・・・・ジャミン・・・・・・どこから・・・・・・妨害されていま・・・・・・。』
 妨害・・・・・・?
 妨害電波か?! 
 一体、どこからそんなものが!
 『タイ・・・・・・ますか・・・・・・?!』
 「大佐!!」 
 『・・・・・・・・・・・・。』
 遂に、ノイズが大佐の声を全て掻き消した。
 「くそッ!」
 鉄の床に拳を振り下ろしたそのとき、ミサイルサイロ全体を揺るがす巨大な振動が俺からバランスを奪った。
 「うッ・・・・・・!」
 これは・・・・・・?!
 空爆じゃない。ソード隊はもう空爆を終えて帰投しているはずだ。
 では、これはなんだ?
 俺は手すりに掴まりながら近くにあった階段を駆け下りた。
 味方部隊も、突然の妨害電波と振動に同様を隠せないでいる。
 「・・・・・・・?!」 
 そして突然、ミサイルサイロの天井から、ドン、と何かが打ち付けられた音が、再びサイロ全体を揺るがした。
 その音はまるで巨人が歩いているかのごとく天井を這いずり回り、そして、味方部隊の真上で止まった・・・・・・。
 何だ・・・・・・?
 一体何が起こっているんだ!?
 味方部隊の兵士は一斉に銃口を音の止まった、つまり自分達の頭上へ向けた。
 「なッ!」
 「うわぁぁぁぁああああッ!!!」
 そして、次に起こったのは、爆発だった。
 爆炎が天井を覆いつくし、無数の破片が味方部隊をめがけて降り注ぐ。そして、彼らはそれに押しつぶされていく。
 その破片は、俺の頭上にも襲い掛かった。
 「クッ!」
 俺は素早く前方に飛び込み、破片をかわした。
 だがそのとき、破片から突き出した鉄筋にバックパックが引っかかり、身動きが取れなくなった。
 止む終えず、俺はバックパックを外し、その場に置き去りにした。
 すぐにその上から瓦礫が圧し掛かり、バックパックを押しつぶした。
 くそッ・・・・・・装備が・・・・・・。
 逃げ惑う兵士達。だが、破片ではないものも、彼らの命を奪っていった。
 「何なんだ・・・・・・あれは・・・・・・。」
 無数の発砲音。閃光が兵士達の体を貫き、朱に染め上げていく。
 爆発が静まり、大穴が開いた天井から、黒々とした何かが次々とサイロ内に侵入し、弾丸を放ち、味方部隊を生かして帰さんとばかりに虐殺していく。
 それは、翼の生えた、人ならざる者達だった。
 黒の翼。飛行用ウィング。
 黒の鎧。アーマーGスーツ。
 そして、不気味な紅い光が揺らぐ、頭部センサー。
 あれは・・・・・・。
 ウィングとアーマーに、赤い円、日の丸の塗装が見えた。
 日本空軍の量産型アンドロイド!何故これが?!
 今回の作戦に参加しているという情報は聞かされていないし、第一、何故、味方を殺したんだ・・・・・・・?!
 そして、今度は巨大な影が天井からミサイル発射台に舞い降りた。
 爆発するように煙が巻き上がり、一瞬それは姿を隠したが、煙の合い間から、黒い装甲と、蒼く輝くセンサーらしき光が姿を現した。
 なんということに・・・・・・それもまた、巨大なアンドロイドだった。
 ただ、それは最初に見たものとは違い、流線型のフォルムをした、かなり生物的なものだった。
 人間に見られるものは何も無い。ただ、何かの生物のような姿。
 まさに、これこそが怪物か。
 しかし、その一部分にも、日の丸がある。
 そのとき、その怪物の頭部の下、顎のような部分が開口し、おぞましい悪魔のような形相でそして・・・・・・。
 まるで凶悪な猛獣の如く、天を仰ぎ、咆哮をあげた。  
 「・・・・・・ッ!」 
 俺は鼓膜に直接殴りかかるような感覚に襲われた。  
 機械なのか、生物なのか、どちらとも分からないような咆哮だった。
 何だこれは・・・・・・。
 これが兵器の動きなのか?!
 その怪物は突然動きを止め、量産型アンドロイドは翼を折りたたみ、全て発射台に着地した。
 天井の破片と兵士達の死体が転がるこの場所は、一瞬の静寂に包まれた。
 そのとき、怪物の頭部から機械音が響き、ハッチが開いた。
 どうやら搭乗兵器らしい。
 ハッチの中からは、一人の少年、翠色の髪をした少年が姿を現した。
 あれは・・・・・・!!
 ついこの前、水面基地にいた・・・・・!
 その少年の視線は真っ直ぐに俺の姿を捉えている。 
 「やぁ。こんばんは。タイトさん。」
 「お前、ミクオか!!」
 俺は彼の名を叫んだ。 
 「貴方がおいでくださることは最初から分かっていましたよ。」
 「何故こんなことを!何故ここにいる!!一体どういうつもりだ!!」
 「あぁ、これですか?何って、貴方が来るようでしたからちょっと遊びに来ただけですよ。ついでに、後ろの兵器とそれに搭載された核もね。」
 平然と受け答えるミクオ。何を考えている・・・・・・?
 「こんなことをして、許されると思っているのか!?」
 「そりゃあ、僕はこの国で好きにしていいことになってますよ。」
 「何・・・・・・?」
 「だけど、味方に手を出しちゃあ僕怒られちゃうんですよね。だから、それを目にしてしまった貴方にも、死んでもらいます。」
 「何だと?!」
 気が狂っているのか?こいつは!!
 ミクオが手を差し出すと、量産型アンドロイドは即座に翼を翻し、天井から見える夜空の彼方へと飛び去っていった。
 「さぁて、今日は貴方に新入りの相手をさせてあげますよ。僕のとぉっても可愛い部下です。さて、出てきてもらいましょうか。シークーちゃーん!!」
 ミクオが余りにもふざけた掛け声と共に手を数回叩くと、天井の大穴から、小さな蒼い影が舞い降りた。
 それは、白いスニーキングスーツを着た少女の姿だった。
 背まで届くような蒼い長髪に、左右の瞳の色は、紫に、桜色と異なっている。
 顎まで覆ってある特殊なヘッドセット。そして、両側の腰にはガンホルスターがあり、大型拳銃が納められている。
 こいつも恐らく、ミクのようなアンドロイドだな。
 「そのコの名前は苦音シク。新しく僕の部下になったアンドロイドです。貴方は今から彼女と戦い、死んでもらいます。ま、簡単に死んじゃっちゃつまらないので、せいぜいがんばってください。僕はここで、高みの見物といきますから。」
 バックパックを捨ててしまった俺に残された装備は、レッグホルスターに残されたボルトガンのみ。弾数も余り残っていない。
 「さ、シクちゃん。ご主人様からのファーストオーダー。」
 シクという少女が、腰のホルスターから拳銃を抜き取った。
 そして、照準を俺に合わせた。
 「そいつを殺せぇえ!!!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORS OF JIHAD 第八話「裏切りの奇襲」

苦音シクさん、登場!!テキスト総数100、達成!!
で、ボス戦。

 
「水面基地」【架空】
 日本の首都である水面都の沿岸部から十キロ離れた海面に建造された人工島空軍基地。
 かつて日本に険悪な姿勢をとっていた興国が領空侵犯を繰り返すうちに、侵犯機に対応する必要が懸念され2019年に建造された。
 素早く侵犯機に対応できるように最新の設備が設置されている。
 中でも特徴的なのが、地下のハンガーから機体をエレベーターで滑走路へ上げ、射出滑走路によってそのまま離陸させることが可能という高速発進システムである。
 従来の、駐機場から滑走路へタキシーダウンし許可を得て発進、という方法よりも遥かに高速に機体を打ち出すことができ、スクランブルにはかなり最適なシステムである。
 射出滑走路には機体のギアに僅かな改修を加えるだけで対応でき、着陸のみならあらゆる機体が可能である。(AWACSや輸送機も射出滑走路に対応している。)
 他にも、施設の殆どを海中に沈めて基地自体にステルス性能を持たせたり、強固なシェルターや装甲が何十にも連なり、内部を保護しているなど、他の空軍基地には見られない最新鋭の設備で固められている。
 基本的にこの基地のパイロットは交代制で定められた空域の哨戒か、あるいはスクランブルに備え二十四時間体制で発進できるように待機していることが任務であり、特殊な場合を除いて基地から外出することは許可されない。
 そのため、基地内にはパイロット達の憩いの場や、体育館、資料室、更にはバーまでもが設置されている。 
 ちなみに、強化人間とゲノム人間で構成された飛行隊、第302戦術戦闘飛行隊が所属しているのもこの基地である。

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投稿日:2009/05/30 20:11:46

文字数:3,856文字

カテゴリ:小説

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