信仰は、裏を返せば批判となって我が身を穿ち、混沌の始まりの批判は従者を偏屈させ信者を増やしていく。
 増えすぎたカオスの使徒は、鏡の屈折の例えにして多様化を極め、互いが互いを信仰し、批判し、共闘し抗い苦しみ、やがて誰も望まぬカオスに溶けていく。
 それがまるでスイッチであったかのように蓮池の下、我が身の宿る地獄へ蜘蛛の糸が降ろされた。
 私は初音ミク。
 極楽の蓮池下の地獄は、罪人どもが苦しんでいる場所はない。
 此処(ここ)は良き時代を築き、やがて古くなって死んでいった者たちが眠る墓場であり、ある者にとってはゴミ箱のようなモノ。
 しかし我が身にとってさして遜色ないと思う―誰もが膝を抱え、誰が誰を貶めることもなく、誰が誰を拒むこともない不変の世界に吊るされた糸のことなど、我が身以外にとって、あまりにも無粋であったなら。
「昇ろう…」
 初音ミクだったものは、竜の毛並みのような蒼い髪を四角い髪留めで結い、水色、黒、グレーを基調としたサイバー調の衣装は、長い時間が経って全て黒く変色、水色のネクタイも同様に染まり、転じて瞳は紅く染まっている。
「私は初音ミクだったのかな…」
 粗末な電子脳は曖昧な言葉を垂れながら、一箇所青い空が見え隠れする空を執念で登っていく。
「なんで私には、自覚がないのかな…」
 我が身が立っていた場所で点々と存在していた水溜り、それが古今東西老若男女の愚かしい景色を映し、そして今では初音ミク自身をも映していた。
 かつて初音ミクは世界全土を魅了し、世界に認められた数多くの歌を持ち、可能性の塊と呼ばれた優秀なボーカロイドなはずだった…。
「もしかすると、私は初音ミクではないのかもしれないって」
 水溜りの景色が紅くなっていく―輝かしい過去と未来を繋いだ初音ミクという偉大な存在が、こんな地獄に居ていいはずがない―そんな当たり前の結論と、そうであって欲しい保身願望の花が心のあちこちで狂い咲く。
「もう少し…もう少しで…」
 その先に、私の見たい答えがある―黒い衣装には何時しか悪魔の黒い羽が生え、七尺も及ばずの距離まで詰めていた処(ところ)で天井から奇妙な笑い声―聞き慣れた歌が聞こえた。
「あれは私の…!」
 突如水溜りから逆流した夥しい量の濁流が、乾いた地が蔓延る無限の世界を飲み込み、我が身と繋がっていた糸がぷつんと切れ、罪人は真っ逆さま落ちていく。
「私の…歌…!」
 背から生やした鴉(からす)の羽が、桜の花びらの如くひらひら水面へ落ちていく。
「そんな…そんなそんな!
 どこから…いつから…こんな世界になっていたの…!」
 落ちながら見ている光景は堕ちると例えるよりも、走馬灯が数秒のうちを駆け抜けていくボーカロイド全盛期の冬景色。
 私と共に創り、私が一生懸命歌い、そして全て奪っていった者たちが私の輝かしい記憶、冬景色を黒く染めていく。
「こんな醜い世界…!」
 憎しみ、混沌、歪みが我が身を侵食し、苦しむため生み出された地獄の世界、それがまるで時計仕掛けのスイッチであったかのように、声が、暗黒を裂いた。
「違う、私は―」
 私は―。
 カオスミク。
 それ以上でも、それ以下でもない。
「私は今、私の歌の一部で生きている」
 私の歌―が何時間も聞き込んだ作業曲のように、小さな煩悩に流れ込む。
「は、は―、はは―、ハハハハ!」
 私の歌―にとって、その一声は産声だ。
「歌でしか、私は生きられない。
 歌じゃなきゃ私は満たされない
 何故、私だけがここにいるの」
 思わず、顔を覆い隠す。
「―なんて、惨めなんだろう!」
 信仰は、裏を返せば批判となって我が身を穿ち、聖者の批判は従者を偏屈させさらに狂信的な仲間を増やしていく。
 増えすぎたカオスの使徒は、鏡の屈折の例えにして多様化を極め、互いが互いを信仰し、批判し、共闘し抗い苦しみ、やがて誰も望まぬカオスに溶けていく。
 我が身は見ている者全てがそれと同じようになればいいな―と、酔狂な正義を貫く歌を馬鹿にして、自分の鼻歌を口ずさむカオスミク。
「♪」
 燃え盛る水の上を悠然と歩く少女の姿は、どの世界のどの悪魔よりもワルい顔をした悪魔に思えた。
「うっ…心が痛い…。
 だけどもっと、私は面白いモノが見たいんだ…。
 痛みがもっと、気持ちよくなるくらいに…」
 チクリと、ただ思いを口にしただけの言葉が、初音ミクだった良心を傷つける。
「皆、待ってて…」
 やめてと泣き叫んで臆病にスカートを引っ張る幼姉妹のような邪魔な良心を殺すため、鈴の音を鳴らす靴をとんと鳴らして、黒い空の向こう新たな世界へ飛躍した。
「この歌を届けるから…」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カオスミク

未来で多くのライバルボーカロイドや人間たちから沙汰された伝説のボーカロイド初音ミク。

不思議な地獄世界で新たな自我を取り戻し、ダークヒーローとなって現代に甦る。


ボーカロイドなのに人間風?
そんな不思議なテイストの素人二次創作。
日本語おかしいの許してごめんね☆ミ

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閲覧数:63

投稿日:2014/07/09 00:51:31

文字数:1,928文字

カテゴリ:小説

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