猫の日常と池本康弘 番外編

猫がいない日朝、目が覚めても猫がいない
窓際にも、ソファのくぼみにもいない
池本康弘は歯を磨きながら
「ふむ」と一言、鏡に言った

新聞のページをめくる音が
今日はやけに大きく響く
コーヒーの香りも、
湯気さえも、少しだけ落ち着かない

「どこ行ったんだ」
と、呟く声は誰に向けたのか
それでも、玄関の戸は閉まっていたし
窓もちゃんとロックされていた

午前中いっぱい、池本は
本を開いたり、閉じたり、開いたり
だが文字は頭に入らず
午後には庭をぼんやり眺めていた

いつもなら、
机の端でしっぽを揺らしてるはずだったのに
毛づくろいの音すら聞こえないと
こんなに家は静かになるのかと知った

夕方、外から一声――「ニャア」
池本は立ち上がるのも忘れて
ただ、その声に顔を向ける

玄関を開けると
猫が、風といっしょに帰ってきた
尻尾に葉っぱを一枚くっつけて
何事もなかったような顔をしていた

「おかえり」
池本はそれだけを言って、ドアを閉めた
猫は一度もこちらを見ずに
まっすぐ、いつものソファへと跳ねのった

夜。
何かが元に戻ったような気がして
池本はようやくペンをとった
そして一行だけ、こう書いた

“猫がいる。だから世界はだいじょうぶだ。”

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

猫の日常と池本康弘 番外編

猫がいない日朝、目が覚めても猫がいない
窓際にも、ソファのくぼみにもいない
池本康弘は歯を磨きながら
「ふむ」と一言、鏡に言った

新聞のページをめくる音が
今日はやけに大きく響く
コーヒーの香りも、
湯気さえも、少しだけ落ち着かない

「どこ行ったんだ」
と、呟く声は誰に向けたのか
それでも、玄関の戸は閉まっていたし
窓もちゃんとロックされていた

午前中いっぱい、池本は
本を開いたり、閉じたり、開いたり
だが文字は頭に入らず
午後には庭をぼんやり眺めていた

いつもなら、
机の端でしっぽを揺らしてるはずだったのに
毛づくろいの音すら聞こえないと
こんなに家は静かになるのかと知った

夕方、外から一声――「ニャア」
池本は立ち上がるのも忘れて
ただ、その声に顔を向ける

玄関を開けると
猫が、風といっしょに帰ってきた
尻尾に葉っぱを一枚くっつけて
何事もなかったような顔をしていた

「おかえり」
池本はそれだけを言って、ドアを閉めた
猫は一度もこちらを見ずに
まっすぐ、いつものソファへと跳ねのった

夜。
何かが元に戻ったような気がして
池本はようやくペンをとった
そして一行だけ、こう書いた

“猫がいる。だから世界はだいじょうぶだ。”

もっと見る

閲覧数:50

投稿日:2025/04/17 15:45:54

文字数:542文字

カテゴリ:歌詞

クリップボードにコピーしました