あれここは何処だろう。
――あ、ワカメの国だ。
そうだとすぐに分かった。何となくそんな気がしたのだ。
なぜそう思ったのか一瞬後には自分でも不思議に思った。
でも訳もなく確信を持った。
でもいつの間に来たんだろう。

あたりを見回してみる。
前に遠足できたときとはだいぶ印象が違う。
薄暗い。路地裏である。道も家もレンガ造りだ。
ふと、自分が今見ている視界に違和感を感じた。
私は今、目が見えている。
景色が見える。
でもなんだか見えていない気もする。
視界がぼんやりしている気がする。
いや、はっきり見えている。
でも……自分の目で見ている気がしない。
なんだか夢の中みたいだ。
でも夢ではない。
夢にしてははっきり見え過ぎている。
見ようと思えばよく見えるのだけれど、見ようと思わないと何も見えない感じ。
自分は景色を見ていると思えば、見えているのだけれど、何も見ていないと思うと、景色が見えなくなる。
見てると思えば見えるけど、見ていないと思うと、見えなくなる。
でも、私がここに居るということが可笑しい事だとは、これっぽっちも思わなかった。
私は、ここに居て然りなのだ。
ここに居るべくしてここに居るのだ。
少し、歩いてみよう。
私は歩き出した。
家と家の間を通っていく。
その家なのだが、人の住んでいる家とは外見がかなり違う。
やはり海の中にある、ワカメの国では陸の「家」とは違うのだ。
特に何も考えないで歩いていると、今自分は何も見えていないことに気がつく。
はっとして、よく目を凝らすと、視界に景色が映る。
油断すると、何も見えていないままで歩いている。
そのことに気付くとまた「自分は見えている」と思い込む。すると自分が今ちゃんと目が見えている事に気づくことができる。
少し開けた道に出た。
ワカメの国の住人が歩いている。
家の中から出てきたり、入っていったりしている。
人間とは違う外見をしている、ワカメ人だ。
前に来たときにも
………………
あれ?前に来たときにこんなワカメ人と会ったっけ?
人間の姿じゃないのに、そのとき、よく驚かなかったなあ
…………

それにしても凄く居心地のよい場所だ。
ふわふわした感じでいられる。
しばらく歩くと、広い道に出た。
向こうに噴水が見える。
その噴水向かっていて行くことにする。
噴水は綺麗に舞い上がっている。
ふと、噴水の近くに人間が居るのが見えた。
私は少し足を速めた。
噴水の所までたどり着いた。
近くまで着たらその人間は、ワカメ人の姿になってしまった。
あれ?
「あ、亜紀子ちゃん!」
―――亜紀子ちゃんって誰だ?
………私だ。
あれ、ワカメの国で私の名前を呼ばれた。どうして?
「どうしたのこんなところで」
話しかけてきているのは、さっき人間に見えた、ワカメ人だ。
どうして私の名前を知っているの?
「何を言ってるの?それより、どうしてここに居るの?亜紀子ちゃん」
どうしてってそれは………
「もしかして亜紀子ちゃん1人で来たの?亜紀子ちゃんも1人で来れたの?」
え?1人で?ワカメの国に?分からない。
「わからないの?そっか初めて来たんだもんね。よくわからないよね」
ところであなたは誰なの?
「誰って、私は浮世だよ」
「浮世ちゃん?!!!」
これまでのぼんやりとした意識が急速にはっきりとしてきた。
そして自分に体があるという感覚が、はっきりした。
そして視界がさっきよりはっきりとした。

そして、目の前に居るワカメ人が、浮世ちゃんなんだと、確信した。
確信はしたけれど、ビジュアル的には、人間の浮世ちゃんの姿とワカメ人の姿が重なって見えたり、交互に見えたりしている。
「浮世ちゃん!どうして浮世ちゃんがここに居るの?私、やっぱりワカメの国に来たんだよね?!」
「そうみたい。1人で来たんだね」
「あれ?なんで??いつの間にこんな所に来たんだっけ?私、1人でワカメの国に来たの?私って実は1人でワカメの国に来れたの?それって凄くない?何で来れたの?どうやって来たんだっけ?」
「ぷっ、はははは」
「え?何?どうしたの?」
「だって、亜紀子ちゃん、前みたいに元気だから」
「あ……うん。」
「あ、………」
浮世は少しばつが悪いような顔をして、少し目線を下に下げた。
「あのさあ、私、この頃なんか学校で亜紀子ちゃんにやな感じにしちゃって……ごめん」
「え、あ、ううん、私も、なんか最近、嫌な雰囲気出しちゃってて」
少しの沈黙の後、浮世が話し始めた。
「あのね、私、亜紀子ちゃん、私が変わってしまったのが嫌なのかなって思ってたの。
前の私に戻るようにって亜紀子ちゃんがしていたのかなあって思ってたの。今の私は嫌?」
「え?ううん、別に嫌ではないよ。」
「あのね、この頃亜紀子ちゃん、暗い感じでしょ?」
浮世は少し怖がった顔で瞬きを多くしながら、一度だけ亜紀子の首らへんに目線を上げて聞った。(少し怯えたように聞いた。)
「うん」
「それで、その暗い感じを出して、私をまた、前のイケてない感じの性格に引き戻そうとしているのかと思ったの。」
「え?どういうこと?」
「私が明るい感じになっちゃったから、亜紀子ちゃんが暗い感じになって、それで、私がその暗い感じに飲み込まれて、私がまた前の暗い性格に戻るって……」
「え、あ、ううん。私はあの、そんなつもりではなかったよ」
「そうなの?私、そうなのかなって思ってた。そうなんだ。そっか。あ、私、ごめんね。その、なんか嫌な感じにしちゃって」
浮世は後ろの方の言葉を小さくしながら言った。
「うううん。今の浮世ちゃんは元気がいっぱいでいいと思ってたの」
「…うん。」
浮世の顔が晴れやかになった。
今度は私が白状する番だった。
「私最近なんか元気なくってさ。あのね、私、なんだかこの頃訳もなく落ち込んじゃってね、…周りの人に迷惑かけちゃってるのかも…。私、なんだか色んな事がつまらなくなってね、それで、
色んな事が意味のない事なんじゃないかって……そういう風に思うの」
「うん」
「そうかと思うと、とっても楽しいことが在ったりするの。でもね、それも終わってしまう。それでまたつまらなくなって…そのつまらなさに、いたたまれなくなるの
私は何をしていればいいんだろうって思って、やっぱり部活に入った方が良かったのかなって…。でも入れなかったの、部活ってなんか上の学年の人も居るし…怖くって…」
「分かる。私もなんか部活って怖いなあって思った」
「そうなの?」
亜紀子は少し明るめの声で浮世に聞いた。
「うん」
………
二人ともやや嬉しそうな、それでいて何かを真剣に見ているような目をして、少しの間、斜め下を眺めていた。
………
そして二人して、顔を上げて、微笑み合った。
あれ?そういえば
こんな人間じゃないワカメ人を見て、驚かないはずはないよね…。
じゃあ、前回遠足で来たときは、ワカメ人に会っていなかったのかな?
そんなはずはない。
ワカメの国の住人と会わずしてワカメの国を観光するなんて出来るはずがない!
ワカメの国の人には前回来たときに必ず、会っているはず。
なのにどうして覚えていないの?
どうして驚かなかったんだろう?
ワカメの国っていったい……。
「浮世ちゃん」
「何?」
「私達、遠足で皆でここに来たよねっ」
「うん…」
「そのときにワカメの国の人に会ったっけ?」
「………うーん、どうだっけ」
「覚えてないの?」
「う…ん」
「そっか」
少しの間の後
「っあのね」
突っ込むようにして浮世が言った。
「亜紀子ちゃんに話す事があるの」
「何?」
「ワカメの国に来た人はワカメの国でのことは忘れてしまうの」
「え、そうなの?」
「そうなの。それでね、私、本当はワカメの国の人なの」
「え、あ、うん。それはさっきから見てれば分かるよ」
「えっあ、そっか」
浮世は少し下げ気味にしていた顔を上げて驚いた表情で私の顔を見て、少し、目をしばたいて、うなずいた。
私は言った。
「でも可笑しくない?だってワカメの国に行ったって言うのに何も覚えていないなんて、みんな絶対おかしいって思うでしょ」
「そこらへんはそうは思わないようにしているの。コントロールしているの」
「ふうん。そうなの?」
いまいち納得は出来なかったけど、私はとりあえず分かったということにした。
「それでね、亜紀子ちゃん、もう帰ったほうがいいと思う。初めてアナログで来た人は早めに帰ったほうがいいの。出ないと戻れなくなっちゃうかも知れない」
「そうなの?」
「うん、時間が経てば経つほどどんどん戻りにくくなっちゃうの」
「え、じゃあもう帰らなくちゃ、やばいかも」
私は慌てた。
「うん。今くらいに帰れば多分問題はないと思う」
「そ、そっか。あ、でもどうやって帰ればいいんだろう」
「ごめん!」
「え!」
浮世ちゃんが私に向かって殴ってきた。
私は避けようと顔を横に向けて……………

私はベッドの上にいた。
私は目を閉じたまま、ベッドの中で浮世ちゃんの拳を避けるために顔を横に向けていた。
私はそのままの姿勢で3秒ほど静止した。


校門で浮世ちゃんに登校班と一緒になった。
「おはよう」
「おはよう」


浮世ちゃんから聞いたんだけれど、ワカメの国はその人の気持ちで、違って見えるらしい。
それって不思議。


それからというもの、夢の中で頻繁に浮世ちゃんに会った。
毎晩のように夢の中で会って話をした。
そしてある日、手伝って欲しいと言われた。
何のことかよく分からなかったのだが、どうやら夢の国が今、別の夢の国から戦争をしかえけられていて、大変だから、その援助をして欲しいというものだった。
私にそんな事できるの?と私は浮世ちゃんに言ったが、出来ると言われた。だって夢の世界なんだもん、だって。それは確かにそうかもしれない。
私は浮世ちゃんに連れられて、ある場所に連れて行かれた。それは夢の国の農村部だった。私が浮世ちゃんと始めて会ったあの夜のレンガ造りの街とはまた別の場所であった。
しかしその農村の様子を見て私は唖然とした。
めちゃくちゃだったのだ。
道は凸凹で、ところどころに穴が空いている。
木や草も倒れたり、ごっそり無くなっていたり。それも不自然に無くなっている。
枯れてはいないのだが…。
お家もグチャグチャだった。
私と浮世ちゃんは口1つ交わさないでしばらく進んだ。
すると、ワカメさん達が多く居るところに着いた。
1つ、運動会のときに使うあの簡易テントがあって、その下にワカメさん達が座って休んでいる。
これは一体どういう状態なのか。ここは初めからこういう場所なのだろうか。
「浮世ちゃん、これは」
「これがコンブの国からの攻撃なの。コンブの国の攻撃であちこちが壊れてしまったから、その修復に今とっても忙しい状態なの」
よく分からないが、とにかく、戦争によってこのような悲惨な状態になっているらしい。
「ちょっとコッチに来て」
浮世ちゃんに言われて着いていくと、ワカメさん達が大勢見えてきた。
何やら輪を作っている。お遊戯会か、キャンプファイヤーでもしているのだろうか。
「これが修復魔法の現場なの」
「え?何魔法?」
「修復魔法」
「あ、修復魔法」
「ここで輪を作って、真ん中の火を囲んで皆の力を合わせて、ワカメの国全体に魔法をかけるの」
「そうなんだ」
「亜紀子ちゃんには、さっきの休憩所で働いてもらうね」
「あ、うん。わかった」
これは大変なことになっている。私も手伝わなくては…。
「私はコッチの魔法の方に加わるから、早速お願いね。」
「はい」
私は働いた
。雑用というのはこういう仕事の事をいうのだろう。お茶を汲んで疲れているワカメさんに持っていったり、食べ物を容器にいれて持っていったりした。
なかなか体を動かしてサッサと動くのは楽しかった。
私は始めて仕事らしい仕事をしたようでそのことが誇らしく、うれしかった。
ワカメの国の食べ物はとても珍しかった。
液体なのだ。
それをストローでチュウチュウ吸うのである。
だから私の仕事は、器にその液体を入れてそこにストローを添えて、魔法を使い果たして疲れたワカメさんに手渡すことである。そして去って行ったワカメさんの器の後片付けである。まるで、ファミレスの店員さんであった。

 ある日の事だった。そうやって雑用を始めて3日目、休憩所の仕事にも大分慣れてきたときだった。
浮世ちゃんとあの田舎に向かって、レンガの街中を歩いていたときだった。

バン!

爆弾が破裂したような音がした。轟音とまではいかなかったが、それなりに凄い音だった。
音のした方を見ると、レンガの建物の一部がごっそり無くなっていた。
レンガの建物が崩れたのではなく、ある部分が不自然にごっそり消えていた。
なんということだ!
「浮世ちゃん、あれって」
「え……」
見ると浮世ちゃんも唖然としている。頭の中が混乱している模様だ。
やや間があって浮世ちゃんが反応した。
「あ、これは攻撃だ!昆布の国の!」

そのとき

「女王様!」
後ろから何か声がした。
先ほどの爆発音で既にエマージェンシーモードに切り替わっていたので、私はさっと後ろを向き声の出所をすぐさま確認した。
すると、人影が3つ、遠くに見えた。
そしてもう一度、
「女王様!」
とその内の誰かが叫んだ。
なぜか私はその言葉が私に対するものであると分かった。
私の心の中の何かがビクっとその言葉に反応したのだ。一回目ではあまりピンと来なかったが、私の記憶の中の何かが元の形を成そうと震え始めたのがわかった。

―――一体、何だこの感じは…

その三人組の内の一人のワカメが大きな声でそう言ってこちらへ駆け寄ってきた。
は?何?ジョウ・オウ・サマ?
彼に手をとられてブンブンと上下に大きく振られる。
ジョウオウサマ?…女王様…?
ただの音でしか理解できていなかったその言葉がやっと意味として頭の中で形をな成した。
しかし、さらに訳が分からなくなった。何が女王様なのか、誰が女王様なのか。
「あっそうだった、今は記憶が」
そう言った彼は私の手にパントマイムのように何かを私の手に渡すフリをしてきた。はて。
私はとりあえずその「なにか」を受け取る動作をする。そして彼は一言つぶやいた。

「重さ」

とたんに私の手に何かのしかかってきた。
女王としての責任の「重さ」さが。
そうだ、私は、女王だったんだ。
思い出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ワカメの国 第四章 思い出す人 杉田亜紀子の物語page4

【説明文】
ワカメの国に迷い込んでしまった亜紀子。
海の中で明かされる、亜紀子の真実の姿とは?
本来の使命とは?
【伝えたい事】
この章で作者が伝えたいメッセージ:就職難に成って居る方へ自分のの本当の指名を全うしましょう。
【賞】
小説「ワカメの国」はKODANSHA BOX-AIR新人賞応募しました。
選ばれませんでした。
【Link】
公式電子書籍:URL:[http://book.geocities.jp/wakamenokunipdf/4.html]
公式サイト:URL:[http://book.geocities.jp/wakamenokuni/index.html]

閲覧数:79

投稿日:2012/02/14 01:57:20

文字数:5,950文字

カテゴリ:小説

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