遠くで叫び声が聞こえる、目の前が赤い、これは何?口の中が鉄臭い味で一杯になる。寝てちゃダメだ、早く立ち上がらないと、あいつを倒さないといけないんだ、でないとまた俺の『家族』が傷付くんだ。あれ?どうしたんだろう?身体が動かないや、指先も全然ダメだ、声すら出せないみたいだ。

「全ては奇跡の名の下に…。」

奇跡…?何言ってるの?奇跡なんて物が本当にあったのなら、俺の『家族』は傷付かなかった、皆で笑って幸せに暮らしていた筈なんだ。なのに俺だけが生き残った、ひとりぼっちで生き残った、だからもう奇跡なんて信用しないよ、自分の力しか信用しないよ。

「全ては奇跡の名の下に…。」

しつこいなぁ…もう放って置いてよ…何だか凄く寒いんだ、それに眠くなって来た。もしかして…俺は死ぬのかな…?

「止めろ『polar bear』。」
「重傷者確認、BS反応あり。」
「構わん、やれ。」
「はい。」

背中に何かが触れた、様な気がした。

「…っ?!…ぐ…あ…ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「…拒絶反応か、やはり失敗だな。行くぞ。」
「あ…ああ…あああAAAあああaaaaアアアああぁぁぁAAAアアアアaaaaAAAAAAAAAA!!!!」

全身が引き裂かれる様な痛みだった。発作の時よりもずっとずっとずっとずっと強い痛み。目の前がガンガンと割れる様に揺れて上も下も判らない。嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!死にたくない…!!誰か…!!誰か助けて!!

「…い…!おい大丈夫か!!」
「あ…あああああッ!!うぁぁああああああ!!」
「ダメです先生!向こうもやられてます!」
「くそっ…!」
「たす…け…嫌だ…い……助…け…!!」
「おい!口開けろ!動くな!」
「う…ぐっ…!んぐっ…!!」

何…?何か…飲まされ…?この匂い…血…?

「げほっ…!げほっ…!うぇ…げほっ!」
「大丈夫か?」
「…ハァ…え…?…あ…れ?」
「良かった…。歩けるなら北ゲートへ、救護班が居る筈だ。」

痛みは無かった。傷も無かった。そして何より、全身からとても空虚な感じがした。

「下がってろ、黒ヒョウ、あのクマは俺達が引き受けた。」
「お前は…。」
「さっさと行け!」

痛みはもう無かった。傷ももう無かった。何より、自分の身体から獣の気配が消えていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -38.空虚な紅-

妄想フィルタ全開で読むとある事に気付く方が居るかも知れません。もし気付いた方はコメ下さいw

※次ページにジャイアンが出現します。

閲覧数:282

投稿日:2010/06/10 17:48:28

文字数:982文字

カテゴリ:小説

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