午後八時
「つっだー;…疲れた…めっちゃくそ疲れた…前ドゥーの野郎3時間説教の後に後片付け…腹減ったー…」
京助は帰宅するなり玄関に座り込んだ
「おかえりー!」
バタバタという足音とワンワンという鳴き声とともに悠助とコマとイヌがのしかかってきた
「悠…重いからドケロ;」
コマとイヌを払い落とし悠助を降ろす
「腹減ってんだよ…;朝昼食ってねぇし、いらねぇ体力使うしで…」
ブツブツ言いながら廊下を歩き茶の間の障子を開ける
「おかえりだっちゃ」
「あーただいまだっちゃ…ッ!!!!?;」
違和感なく返事してしまった後 緊那羅の姿を見て目を丸くした
「き…!?ってか悠!!? キンナラムちゃん!?;」
パニくってよくわからない言葉を連発しながら悠助と緊那羅を交互に見る
「緊ちゃんね、いいたい事があるんだって」
悠助が京助にを見上げてにっこり笑った
「いい…たいこと?」
「ね? 緊ちゃん」
緊那羅は悠助とアイコンタクトした後コクリと頷いて
「ごめんなさい」
そういって頭を下げた
京助は何が起こったのかわからなくて固まったままだった
「ほらほら京助、そんな所に立っていたらおかず運べないわ今日から家族増えたんだから少し手伝ってち
ょうだい?」
お盆に夕飯のおかずをのせ母ハルミが茶の間に入ってきた
「京助ー緊ちゃん謝ってるよ?」
悠助に制服の裾を引っ張られハッとして京助は緊那羅を見た
緊那羅はまだ頭を下げたままだった
悠助を見ると【許してあげてオーラ】が全開で出ていた
母ハルミを見ると…微笑みながら真新しい箸を手渡された
「…母さん昨日のエビフライ…まだ残ってたっけか?」
「冷蔵庫にあったはずよ?」
「…とってくる」
そういうと京助は茶の間を出て行った
しばらくして戻って来たかと思うと真新しい箸にエビフライを一本刺し緊那羅に差し出した
「きょ…」
「さっさと持てよ温めてきたから皿あちぃんだから」
恐る恐る緊那羅が箸を受け取ると京助は意地悪そうに笑い
「食ってみろよ昼間弁当に入ってたエビフライと同じヤツだから…食べられなくしたことぜってぇ後悔す
る美味さだぞ」
そう言って席に着いた
「じゃぁいただきますしましょうね? ホラ悠ちゃんも緊ちゃんさんも座って…」
母ハルミが仕切りだす
「よかったね! 緊ちゃん!」
箸を持ったまま立ち尽くしていた緊那羅に悠助が笑いかける
「…うん…」
緊那羅が少し照れながら頷いた
「緊ちゃんって歌うの好きなの?」
緊那羅が栄野家で過ごし始めて4日目、風が気持ちいい土曜日の夕方のことだった
母ハルミは婦人会の旅行計画の打ち合わせとかなんとかで出かけていて京助は学校から今だ帰ってきてい
なく栄野家には悠助と緊那羅、コマとイヌしかいなかった
縁側で何をするわけでもなくボケっとしていた緊那羅は悠助の声で振り向いた
「歌、上手だねっ」
「え…私…歌ってたっちゃ?;」
よいしょ、と隣に悠助が腰を降ろした
「僕もねぇ歌好きなんだー昨日もね校歌歌ったんだよ?」
エヘヘっと笑いながら足をブラブラ揺らした
「ハルミママの歌も好きだけど僕緊ちゃんの歌も好きになったよ?今歌っていたのなんていう歌?」
「う?ん…無意識に歌っていたみたいっちゃから…わからないっちゃ;」
緊那羅が申し訳なさそうに苦い笑みを返した
「えぇ?…むぅ?…」
悠助が頬を膨らませてちぇ?っとそっぽを向いた
「ごめんだっちゃ;」
緊那羅が謝ると
「そうだ! じゃあ緊ちゃんが一番好きな歌教えて? っていうか歌って?聞きたい?!!」
悠助が緊那羅の体を揺すってせがんだ
「んー…; 一番好きな歌…だっちゃ?」
顎に手をかけて考え込んだ緊那羅を期待一杯の目で悠助が見つめる
「じゃぁ…」
歌を歌うときは何を考えて誰を想い声を出すのだろう
優しい気持ちで歌う歌は、憎いという気持ちで歌う歌は…
「それ、子守唄かなんかか?」
片手にタオルケットを持ち京助が『よっ』と手を上げた
「京助…? あれ?;」
太ももに温かいものを感じて目をやると悠助が寝こけていた
京助はしゃがんで寝ている悠助にタオルケットをかけてやると悠助が微かに動いた
「鳥居くぐったらさ歌聞こえて…そこの茂みから覗いたら悠は寝てるしお前は熱唱してるし…」
京助が伸びをして緊那羅の横に座る
「さっきも聞いたけどその歌って子守唄か何かか?」
「私もよくわからないんだっちゃ; ただ悠助に一番好きな歌歌ってくれって言われて…そしたらこの歌
が自然と…いつ、誰から教えてもらったのかわからないんだっちゃ…でも何だか…」
緊那羅が悠助の頭を撫でると悠助がモゾモゾと動いて起きるかと思いきやまた寝息をたてだした
「ふぅん…でもさ、俺もその歌好きかもしんねぇわ。なんつうか…嫌なこと忘れそうになるっつうか」
足の裏と足の裏を合わせながら京助が照れくさそうに言った
「とにかく俺、緊那羅の歌好きだぞ」
「あ…りがとだっちゃ…」
悠助だけではなく京助にも歌が好きといわれ緊那羅が照れて俯くとそれを見た京助が
「さーて…そろそろ母さん帰ってきますかねー…っと」
言ってから恥ずかしくなったのか京助はすっくと立ち上がると家の奥に入っていった
「……栄野…京助、悠助……」
風鈴がチリリ、と鳴った
緊那羅が薄暗くなってきた空を見上げると一番星が見えるようになっていた
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