暫く泣いていた芽結だが、少し落ち着くと此処へ来た理由を話し始めた。

「コトダマ…?」
「うん。えっと、昔からある言葉には力が宿る『言霊』じゃなくて、『言葉』を
 『概念』として電気信号変換して、感覚や存在を『認識』させる技術『言魂』。
 物体、空間に作用して其処にある筈の無い物を作り出したり、動きや性質、感情も
 操作する事が出来る。生命体を生み出す事は出来ないけど、既にそこにある植物なら
 成長させて花を咲かせたりも可能になるの。」
「魔法使いだな。」
「うん…だけど誰にでも使える物では無いの。私も詳しくは判らないけど脳の構造で
 適合者とそうでない人がいるって…。」
「…あの化け物は結局何なんだ?腕にあった文字が『言魂』なのか?」
「あれは『言魂』に飲まれた人。研究所では『文字化け』って呼んでる。言葉に
 縛られて、支配されて、自分を否定した姿だって言ってた。ああなっちゃったら
 気を失うまで暴れるだけ…。」
「元に戻せるのか?」
「うん。元凶になってる『言魂』を別の言葉で打ち消せば…。」

その言葉であの怪人に襲われた時の幾徒の行動にようやく合点が行った。あいつを縛っていたのはおそらく『倒錯』。そして幾徒が口にしたのは『蕕音流船』『身体強化』『敵影攻撃』『敵影』『理性』『平静』『現実直視』…。…ん?ちょっと待て?

「なぁ、『言魂』って普通の人に撃ったらどうなるんだ?」
「え?んー…言葉にも寄るけど危ないんじゃないのかな?下手したら『文字化け』
 しちゃうと思う。」
「あいつ俺を撃ったんだけど…?」
「流船君は適合者だから『文字化け』しないよ?幾徒さんは確信して撃ったって
 言ってたし。」
「はぁ?!そんなん聞いてないけど?!」
「『文字化け』は普通の人には『言魂』が読めなくなるの。読めるのは適合者だけ。」
「あー…ああ、それで…。」

こんがらがってた糸がするすると解ける様に繋がった。

「つまり俺は適合者で、あの変な銃が使えるって訳だ?」
「うん…使える武器に寄っては一人だと危険だから…もしもの時は私が流船君
 守ろうって思って…。」
「女の子に守られるのもなぁ…。」
「で、でも『文字化け』はほんとに危なくて!スタッフの皆も何度も怪我したり
 してて…お母さんだって…!」
「お母さん?」
「…私のお母さん…『文字化け』の事故で巻き込まれて大怪我して…私その時まだ
 戦えなくて…お母さん…守ってあげられなくて…。」
「ああ、ちょっと泣くなって…!」

どうも芽結は涙腺が弱いらしい。話の途中でまた目に涙をいっぱい溜めていた。正直こう言うのは慣れてない。バイト三昧で彼女云々に興味持ってる暇無いし、モテないから頼流みたいに女あしらいも上手くないし…。

「ごめ…思い出しちゃって…。」

涙で潤んだ目を見た瞬間、全身がざわつく様な感覚が走った。不意に昨日言われた言葉が頭に甦る。

『丸一日位で効果切れるから青春の思い出だと思って楽しんどけ。』

丸一日…?時間なんて覚えてないけど芽結に意味不明な『言魂』撃たれたのが昨日の夜中。少なくとも丸一日は経ってないよな。もしかして…まだ…残ってるとか…?いや、まずいだろ、まずいって、良く考えたら今の状況相当危ないんじゃないのか?こんな場所に二人きりで、あれ?ちょっと、何?この手。俺の手?駄目だって、それは駄目だって、でも何か体が全く言う事聞かないと言いますか…!

「芽結…。」
「え?…んっ…?!」

自分よりずっと柔らかくて、少し涙の味の唇だった。驚いて固まってしまった芽結を閉じ込める様に抱き締めると、無防備な唇をまた奪っていた。涙が止まったらしい芽結は、時折指先を強張らせながらも、抵抗する事なく目を閉じてキスを受け入れていた。これも『言魂』のせいなのか…?芽結も…嫌なら抵抗すれば良いのに…。あぁ、駄目かも…止める自信これっぽっちも無い…。

「…あーもうムカツクなぁ!あのハゲ先…おわっ?!」
「あ。」
「ふぇ…?」
「………………………………………。」
「流船が転入生に手ェ出したぁああ―――!!」
「ちょ…?!スザク待っ…!!」

あ…そう言えば俺ファーストキスだった…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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コトダマシ-8.あれ?ちょっと、何?この手。-

見ーちゃった

閲覧数:126

投稿日:2010/10/18 18:12:52

文字数:1,740文字

カテゴリ:小説

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