小樽に上陸した僕達は、港から連絡バスで小樽築港駅へ行き、そこからJRで札幌に向かうことにした。まずは今晩の宿を得て、明日からは仕事と住む所探し。それには道都札幌が一番ふさわしいと思われたからだ。

連絡バスのバス停へ行くためにフェリーターミナルから外に出る。

まずは頭上の夜空を横切る長大な渡り廊下に圧倒されたが、少し周囲に目をやると街灯の明かりの中にピンクの可憐な花を見つけた。

Ma+tA「「あ、
はまなす」」

僕達は思わずハモると、生垣に小走りで近寄った。

Ma「綺麗だねぇ~」

tA「うんうん」

Ma「実も可愛いねぇ~」

tA「そうだね。でも面白ぉーい。花も咲いてるけど、青い実もあって、すっかり赤く熟している実もあって、いろいろ混ざってるんだね」

Ma「うんうん。それがまた可愛いねぇ~」

今は赤く熟している実も、ちょっと前には青い実で、その前には花が咲いていて… そんな時間の流れの中での命の営みが感じられた。

着岸している巨大なフェリーに目をやると、車両用の出入り口からは、トレーラーの頭だけ入っていったと思うと、出てくる時には長ぁーいお尻を引き連れて出てくる。次々と。すごい大量の積荷。でも全部送り主がいて受け取る人がいる。沢山の人がつながつて生きているのだと思った。

そんな光景を眺めていると、緊張して興奮気味だった気持ちが静まってくる。

だが、冷静さを取り戻したことによって、記憶を失ったということがいかに重大なことなのかが僕達に重くのしかかってきた。

僕達は記憶を失ったことで、自分達の経歴という時間流れの中でのつながりを失い、今まで沢山持っていたであろう人とのつながりも失ってしまった。記憶も身分証明もなにもない僕達。そんな僕達に仕事や住むところが見つかるのだろうか。

そして問題はそれだけではなかった。僕達はこれからも命を狙われ続けるのだろうか。そもそも命で償わなけれいけないことをしてしまっているのだろうか。

気持ちは重く沈み、バスの座席に座り、ふたり並んで揺られている僕達は無口だった。

バスを降り、重い気持ちを引きずったまま小樽築港駅の橋上の駅舎を上り下りし、ホームで待つ僕達。

しばらくすると電車が近づいて来た。

A「うわぁー。4灯だ。すごぉーい」

久しぶりに僕が口を開いた。

その時突然、僕の頭の中には、真っ白な冬の一場面が呼び起こされた

吹雪でかすむ視界の中、4灯の汽車が止まっている。

雪のための一時運転見合わせなのだろうか。

でも、汽車の前面の4つのヘッドライトは常に前方を照らしてた。

人力でのポイントの除雪作業が完了したことが確認できたのか、汽車はゆっくりと動き出した。

Ma「なにぃ~ よんとう ってぇ~?」

ママの声で僕は我に返った。吹雪の中の4つの光は、そのままホームに進入してきた電車のヘッドライトになった。

tA「あ、ヘットライトが4つあるってことだよ。普通は2つでしょ。北海道の汽車は吹雪の中でも進まなければいけないから4灯なんだよ、きっと」

Ma「う~む、そうだっけ。覚えてないよ。私、タタが素敵な旦那様だってこと以外全部忘れちゃったぁ~」

今の僕達は吹雪で視界が閉ざされたときのように前も後ろも分からないい。でも、2人の4つの目で前を見続けいていよう。そうすれば、いつかはきっと前に進める時が来るはず。そして、どんなに辛く厳しいことがあっても、このぬくもりだけは絶対に守り続けたい。今度は電車の座席にふたりぴったりくっついて座りながら、そう思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

タタママのはーとびーと 2-トイレでの襲撃(2)

前作の続きです
物語の今回の部分に関連する作品(挿入歌)は
「はまなす と 渡り廊下 と トレーラー」(https://piapro.jp/t/ki3S)
「4灯の汽車」(https://piapro.jp/t/PS9I)
です。

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投稿日:2018/12/23 22:36:16

文字数:1,484文字

カテゴリ:小説

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