消火器をぶちまけられたのと怪我したのとで、俺達は取り敢えず学校を出た。学園長は流石に部屋の惨状に驚いていたけど『まぁ何とかなる』とけらけら笑っていた。豪快なのか、あるいは強がりなのか…。

「バイト休みで良かった…。」
「ああ、巫女カフェだっけ?指名率№1の月乃ちゃん。」
「巫女…?!」
「調べんなよ…高給だから助かってる。せめて自分の学費と諸経費位は稼がないと
 頼流が大学通えないし。」
「頼流って?」
「俺の兄さん。」

俺が物心付いた時には頼流しか居なかった。両親の記憶は殆ど無い。頼流だけが家族だった。一緒に施設を転々として、中学になったら頼流は直ぐ働き始めて、高校も行かずに俺を守り育ててくれた。俺の為に頼流が犠牲になるのが嫌で、俺が頼流の足を引っ張っている気がして、だから俺も同じ様に働き続けた。少しでも助けになる様にと…。

「蕕音頼流。R大の二年だったかな?高認で入った奨学生で成績はトップクラス。成程、
 確かに野に置くには勿体無い。」
「だから調べんなっての!」
「兄貴も保護する。心配するな。」
「え…?」
「適合者と家族の安全は【Wieland】が全面的にバックアップする。お前も、お前の
 家族も、芽結の家族も、俺が全力で守ってやる。」
「幾徒…。」
「だから身を粉にして働け働け~い。」

ムカツイたので出掛かったお礼の言葉は言わずに飲み込んでやった。車は不意に豪奢な建物の前で止まったと思うと幾徒は車を降りた。

「え?何此処?」
「着いたから降りろ。そんな粉だらけじゃ表歩けないだろ、手配してあるから来い。」
「水道か何かで良いんじゃね?」
「生憎俺は繊細なもんで。因みに此処はウチの系列のホテルだ。」

幾徒はツカツカとロビーを素通りするとエレベーターに乗り込んだ。俺も芽結も訳が判らずただ後を追いかける。エレベーターが止まると研究所で会った女の子が待っていた。

「ちょっと、幾徒!大丈夫なの?うわ、粉だらけ…。」
「心配無いよ、手配は?」
「終わってるよ、一応医療スタッフも呼んであるから、ちゃんと診て貰ってね?」
「ん、ありがと。鳴音。」

通された部屋は正直住んでいるアパートより広かった。

「流船、うろうろする前に風呂入れ、粉が落ちる。服も手配してあるから。」
「へいへい。」

粉だらけなのは自分でも気持ち悪かったので素直に風呂に入った。嫌味な程広い風呂に浸かると体中のすり傷が沁みた。

「はぁ~…サッパリ…あれ?幾徒は?」
「えっと…何か他の部屋に行くって…出て行っちゃった。」
「…は?」

――Piriririririri…Piriririririri…Piriririririri…。

ホテルの備え付けの電話が鳴った。事態が飲み込めないが取り敢えず電話を取る。

「も、もしもし?」
「その部屋取ってあるから好きに使え。」
「幾徒?お前…ふざけんなよ!何考えてんだ?!」
「明日休日だし別に良いだろ。それとも何?理性が持たない?」
「なっ…?!」
「…蕕音頼流を見付け次第こちらに保護する様に手配した。家に戻るのも、お前等が
 一人で居るのも今は危険だ。芽結にもそう伝えてくれ。」
「…幾徒…。」
「ああ、間違いは起こすなよ?お前まだ責任取れないし。」

やっぱりムカツイたので出掛かったお礼の言葉は言わずに飲み込んでやった。叩き付ける様に電話を切ると少し戸惑った様子の芽結がこちらを見ていた。さて…どうしたもんかな…?

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コトダマシ-15.水道か何かで良いんじゃね?-

このホテル、DGのあのホテルw

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投稿日:2010/10/16 07:39:09

文字数:1,442文字

カテゴリ:小説

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