オリジナルマスターで好き勝手した結果、なんとコラボのお誘いがあって2人でお話を書けることになりました。
コラボのお相手は、心に沁みるお話を書かれる、桜宮小春さんです。
桜宮さん宅と自分とこのVOCALOIDのマスターたちが暴れまわるので、苦手な方はブラウザバックプリーズ。

ばっちおk!という方は本編へどうぞ。

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開店前の静かなバー。
開店準備に追われているマスターの邪魔にならないように、俺はカウンターの隅でノートパソコンを開いていた。
因みに、クーさんはNoirさんの送迎で今はいない(あの2人はあれで付き合っていないというのだから不思議だ)。
カウンターに置いたノートパソコンのディスプレイには、何度目の再生になるかわからない動画。

「はあ……」

思わずため息をついた俺に、カウンターの向こう側でマスターが眉を下げた。





Kickass Fellows
隆司編 第一話





「悩み事、かな?」
「ええまあ……大したことじゃないと言えば、大したことじゃないんですけどね」

俺の曖昧な返答に、「大したことと言えば大したことなんだね」と話を聞いていたマスターがにこやかに言った。
それには苦笑を返すしかない。
つまるところ、これはマスターの言うとおり『大したこと』なのだ。
だからと言って、マスターに話してどうなることでもない。
それをわかっていながらも、動画を繰り返して見れば見るほど頭に浮かんでくるルカの無理につくった笑顔が少しでも消えるような気がして、俺は頭の中の靄をため息にして吐き出していた。

「今……オンラインの方でルカと仕事ができそうなんですが、メンバーが足りなくて困っているんです。カバーコンテストなんですけど」

パソコンのディスプレイを指差しながら言うと、マスターはグラスを拭きながら小さく頷いた。
それは、ボーカロイドが歌っている曲をカバーするという企画で、上位に入選した作品はネット上で紹介される。
上手くいけば、そこから大手の仕事も入るということで、競争率も高い。
まあ、俺にとってその辺りのことはどうでもいいのだが。

「ルカちゃんって、あのLUKAちゃんだよね? 忙しくて大変なんじゃない?」
「そうなんですよね。でも、今回のは受付期間が長いようなのでいけるかなと思ってるんです」

俺自身も暇そうに見えて、実のところは毎日仕事が入っているし、ルカとはスケジュールが合わないせいで、今まで一緒に仕事をする機会はほとんどなかった。
だからこそ、この仕事を見つけてきたルカも、俺と仕事ができることをとても楽しみにしていたのだと思う。

「あれ? でも、LUKAちゃんってプロじゃなかった?」
「プロ……確かにあいつはテレビに出演してますけど、ほんの少しですよ」

そもそも、経歴がどうこうとは書いていない。
素人も玄人もごちゃ混ぜでワイワイやるって企画なんだろう。
そう……せっかく、俺とルカの腕試しになる企画を見つけたと思ったのに、解決できない問題が1つ。
複数構成、という企画の条件だ。

「なるほど、君なりのプレゼントってわけだね」

恥ずかしい言い方をしながらクロスを折りたたむマスターに、「ええ」と小さく応える。
この機会を逃せば、すぐにはチャンスが巡ってこないだろう。

「大丈夫だよ、水沢くんの周りなら音楽好きも多いみたいだしね」

そう言ったマスターはどこか俺を安心させるような笑みを浮かべ、「ちょっと出るけど大丈夫?」と声をかけてくる。
思わず付けっぱなしのノートパソコンとにらめっこしてしまった俺は、店内の時計に目を移して、まだ開店までに時間があることを確認した。
この時間なら、まだ客が来ることもないだろう。

「いいですよ。気をつけて」
「うん、ありがとう」

マスターを笑顔で送り出し、俺は再びノートパソコンとにらめっこを再開する。
もちろん無機物とのにらめっこに勝てるはずもなく、俺がため息の回数を増やすだけだったが。



+++



マスターが出て行ってからしばらく、ノートパソコンを閉じた俺は、カウンターの中へと入った。
喉が渇いたのでグラスに水を入れようと思ったわけだ。
ここにはよく出入りしているし、マスターやクーさんからバーテンダーとしての心得や技術は学ばせてもらった。
2人からお墨付きをいただいた俺は、店員しか入ることを許可されないところにも入れるわけで……これは決して不法侵入ではない。
グラスに氷を入れ、水を注ぐとカランと涼やかな音が鳴る。
考えすぎで熱された頭まで冷やしてくれるような気がした。
だからといって、ルカが喜ぶような結果には今のところたどり着けそうにない。

「っつっても、ボーカロイドがいるとこも限られてんだよなー……」

あたれるところには既にあたってみたが、結局多忙だということで断られてしまった。
正直、行き詰っている。
グラスの水をぐいっと飲み干したところで、店のドアが開いた。
氷がグラスにぶつかる音とはまた違う、少し楽器的なベルの音が響く。
俺は慌てるでもなくグラスを置くと、入ってきた男に声をかけた。

「いらっしゃい」

笑顔を向けると、眼鏡をかけた俺と同じ年頃だろうと思われるその男は、少し驚いたように口を開き、躊躇いがちに「こんにちは」と挨拶してくれた。
なかなかに好青年だ。
見るからにモテそうな気がする。
彼は、マスターやクーさんを探しているのか、辺りを見回した後でカウンターの椅子に腰掛けた。
2人が留守で店を任された今、俺は彼をもてなさなければならない。
そのことには、それほど抵抗はなかった。

「何にしましょうか」
「カルアミルクをお願いします」

そう言われながら、マスターやクーさんなら注文なんてしなくても客の顔を見れば何を飲みたいかぐらいわかってしまうのだろうと苦笑を零す。
俺自身がここでずっと働いているわけではないから、客の好みなど覚えていなくても当然なのだが。
手早くカルアミルクを作り、何事か考えているらしい彼に「どうぞ」と差し出した。

「どうも」

短く返事をしながらグラスを手にした彼は、クロスを折りたたんだ俺を見ながら、不思議そうに「あの」と話しかけてくる。

「……バイトの方ですか?」
「ああ、いえ、マスターとクーさ……ここのバーテンダーの方が今留守にしているので、任されたんですよ」

もし客が来るということがわかっていたら、マスターだって店にいただろうし、俺がこうして接客することもなかっただろうに……この人もある意味不運だ。
「あー、なるほど」とマスターやクーさんがいない理由に納得した様子で、彼は続けた。

「手際がいいのでてっきりそうかと……いや、バイトならこうはいきませんかね」

師匠が良いからだろうな、と心の中で呟きながら、ありがとうございます、と口にする。
実際は正規従業員でもなければバイトでもない、ただの助っ人なのだが。
それなりに甘党らしい彼は、カウンターで優雅にカルアミルクを口にしていた。
それを眺めながら、このバーへ来たということはそれなりに吐き出したいものがあるのかもしれない、と手始めに差し障りのないことを尋ねることにする。

「ところで、あなたはこのバーにはよくいらしているんですか?」
「よく、ってほどではありませんが、それなりには。前まではよく従姉に連れてこられてましたね」

「初めてちゃんと飲みにきた店もここですし」と言うその表情は、どこか懐かしんでいるかのようだ。
モテそうな彼のことだから、てっきりデートで来たのかと思っていたが、そうでもなかったらしい。

「――どうかされました?」

不意に曇ったその表情が気になってそう声をかけると、彼はまずいことがバレてしまったかのように苦笑した。
やはり、何か悩み事――もしくは吐き出したい事――があるらしい。

「いや……少し厄介な事を思い出しまして……」

その言葉に、例のカバーコンテストのことが脳裏を過ぎる。
「厄介、ですか」と小さく言葉を吐き出して、疲労感が垣間見える彼に笑いかけた。

「吐き出した方が多少なりとも楽になるかもしれませんし、お聞きしましょうか?」

俺なんかがマスターやクーさんの代わりになるとはもちろん思っていないが、愚痴を零しにくる客が少なくないこういった場所では、話を聞くだけでも助けになるというものだ。
そんな俺の考えも知らず、素直そうな彼は「すみません、じゃあ」と話を始めた。
自分自身にも悩みがあるところではあったが、もしかすると彼の悩みとどこか通じるところがあって、自分の悩みも解決するかもしれない――そんな、ほんの僅かな期待もなかったわけではなかったが、彼の話を聞いた瞬間、正直……目を剥いた。

「VOCALOIDって、ご存知ですか?」

まさか、だった。

「……VOCALOIDが何か?」

気の利いた返事などできるはずもない。
まさか、本当に彼もVOCALOID絡みで悩んでいたとは思わなかった。
偶然とは俺が考えていたよりも恐ろしいものなのかもしれない。

「なんと言いますか……久しぶりに歌ってもらおうと思って曲を作ろうとしたはいいんですが、行き詰まってまして……あの、俺、何か変な事言いました?」

余程俺の表情が笑顔からかけ離れていたのか、彼は心配そうに首を傾げる。
「いや、そうじゃないんですが」と、自分の悩みを口にしかけたところで、口を閉じて黙り込んだ。
俺は今、まがいなりにも店員だ。
私情を持ち込んで取引なり何なりをしても良いものだろうか。
やっぱり話さない方が良い、と考えかけたその時、ルカの寂しそうな表情を思い出した。

「――実は、俺のところにもVOCALOIDがいるんです」
「そうだったんですか。偶然ですね」

はい、と答えて、何を言っているんだと自分の口を塞ぎたくなった。
冷静に考えている部分と感情が上手く合致してくれないらしく、俺の考えをよそに「それで」と言葉は口から勝手に外へ出ていた。

「もし興味があれば……俺と、カバーコンテストに出場してみませんか?」

言葉が全部出てしまった後、ようやく口を閉じることができたが、後の祭りだ。
言ってしまったことをなかったことにはできず、唖然としている彼の返答を待つ。
何を言われたのかすらまだ理解できていない様子の彼は、十分すぎるほどの時間をとって、何かの間違いではないかと驚いた表情になった。
しかし次には真剣な表情になって彼は口を開く。

「……それ、詳しく聞かせていただけますか」

思いのほかやる気がありそうなその返答に、偶然というのは恐ろしい、と再度同じことを思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【オリジナルマスター】 Kickass Fellows 第一話 【隆司編】

司くん、バーにて店員(仮)をつとめていた時にやってきた好青年を口説き落とすの巻(待て
……いや、でもあたらずとも遠からずですよね?
はてさて、これからどうなることやら。

というわけで、今書いてるはずのお話を放ったらかしてこんなこと始めちゃいました、+KKです。
あれだけ嫌いだ嫌いだと言っていたraison d’etreの主人公の幼馴染が、まさかこんなことになろうとは……。
もうそろそろ自重を思い出すべき、な気がしますが、楽しいのでモーマンタイ。

この場をかりて、桜宮さん、誘ってくださって本当にありがとうございます。
精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。

何だかちょっと頼りなさげな悠さんですが、彼にもいろいろとあるようですので、そちらもぜひ桜宮さんのページから。


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悠さんの生みの親、桜宮小春さんのページはこちらです~。
→ http://piapro.jp/haru_nemu_202

閲覧数:157

投稿日:2010/08/18 22:01:51

文字数:4,397文字

カテゴリ:小説

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