「2曲目、行くわよ!」
その声を合図に、ミクを照らしていたライトが消える。一瞬ミクを見失ったが、徐々に暗闇に慣れてきた目が、難なくミクを発見した。
それは、月明かりだった。
彼女を照らすのは、月明かり。夜空に瞬く星々。そして水面に反射した月光。
決して明るくはない。だが、暗くもない。先ほどの人工的な光とは比べ物にならなくぐらい、自然の光は優しくて、そして力強かった。
どこからか、音が流れてきた。
それは静かで、特徴的な音程を規則的に繰り返している。何だこれは……音が、規則的に並んでいる。風が鳴るような、不躾で荒々しい感じとは全然違う。これは……計算されている音だ。しかもいくつもの音が重なり合って、全く新しい音を作り出している。そうやって重なる事も、全て計算尽くというわけなのだろうか……。
ミクはまた目を閉じていた。足が小刻みに震えている。よく見ていると、その震えは規則正しく流れてくる音とタイミングが一緒だった。オレにはよくわからないが、この行動はとても重要なものなのだろうと、本能的に理解した。
規則的に流れてくる音が盛り上がると、ミクは目を閉じたまま歌い始めた。
──夜空には いつも変わらずあなたがいる
あなたはいつも私を照らしてくれる
その光はとても優しくて
私の心を満たしてくれる
ミクの顔を、月明かりが照らす。目を閉じたその顔は、満たされていながらもどことなく悲しそうだった。なぜだかそう思えた。ミクの声を聴くと、なぜだかそう思えるのだ。
規則的に流れてくる音が、少し今までと違う感じに展開してきた。するとミクも目を開けた。
──手を伸ばせば届きそう
だけど届かないの
あなたはとても遠い存在
ミクは切なそうに、月に向かって手を伸ばす。表情も、とても切なくて、見ているオレも息を飲んだ。彼女の澄んだ声が、その悲しさをダイレクトにオレの心に届けてくる。
あぁ、胸が苦しい……。
──こんなにも側にいるのに
どうして触れることさえできないの?
私はただ あなたに会いたいだけなのに
規則的に流れてくる音が、徐々に盛り上がってくる。耳に残る規則的な音程を作りながら……何か、次に向かって力を溜めているような感じだ。よくわからないが、ミクの声の悲しさとは裏腹に、何らかの期待感を持たされている。切なく思いながら、次の展開が気になってドキドキしてきた。
それに合わせて、ミクも月へ伸ばした手をゆっくりと胸の前に戻す。切なそうに、名残惜しそうに月を見つめながら……。
──だけどいいの
私はあなたと一緒にいる
一緒の時を過ごせるだけで幸せなの
切なそうに、月を振り切るように俯くミク。目元がきらめいたような気がした。泣いているのか……? オレも胸が締め付けられるように苦しくなる。
流れてくる音は、その音を重ねて壮大な感じが広がっていた。何というか、上り詰めていく感情の流れがあるようだった。そして予定されていた所へ向かうような正確さで、オレも最初からそこへたどり着くのがわかっていたかのような既知感を覚える。
──だからだから
私をずっと見守っていてね
音の広がりはこの時を待っていたかのように、盛大に弾けた。そう、弾けたという風に表現するしかないような感じなのだ。ああ、上手く言葉に表せない。
ミクはオレ達を見ていた。胸に当てた手を固く握りながら、切なそうにオレ達を見ていた。だが、その目には優しさが溢れていた。凄く……見つめられると、悲しさと一緒に優しさも一緒に、オレの心に流れ込んできた。
ミクの声が最高潮に盛り上がった所で、ミクの足下から光の粒が溢れた。
無数の光の粒が、夜空へ向かって昇ってゆく。そのたくさんの光に照らされたミクの顔は、ドキッとするほど色っぽくて、悲しそうで、綺麗だった。永遠に昇っていくかと思われた光の粒は、徐々にその数を減らしつつも昇ってゆく。ミクはその光の最後の群れを目で追って空を見上げる。そしてその視線は月へと……。
月を見上げたところで、ミクの声も徐々に小さくなっていった。綺麗に余韻が残るような、自然に小さくなっていっていった。
それを合図に、規則的に弾けていた音も徐々に鎮まってゆき、やがて小さくなって消えていった。
コメント0
関連する動画0
オススメ作品
8月15日の午後12時半くらいのこと
天気が良い
病気になりそうなほど眩しい日差しの中
することも無いから君と駄弁っていた
「でもまぁ夏は嫌いかな」猫を撫でながら
君はふてぶてしくつぶやいた
あぁ、逃げ出した猫の後を追いかけて
飛び込んでしまったのは赤に変わった信号機
バッと通ったトラックが君を轢き...カゲロウデイズ 歌詞

じん
命に嫌われている
「死にたいなんて言うなよ。
諦めないで生きろよ。」
そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。
実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて
「それが嫌だから」っていうエゴなんです。
他人が生きてもどうでもよくて
誰かを嫌うこともファッションで
それでも「平和に生きよう」
なんて素敵...命に嫌われている。

kurogaki
意味と夢と命を集めて
作られてしまって身体は
終わった命を蒸し返す機械らしい
【これは彼の昔のお話】
人一人は涙を流して
「また会いたい」と呟いた
ハリボテの街の終末実験は
昨日時点で予想通りグダグダ過ぎて
その時点でもう諦めた方が良いでしょう?
次の二人は 街の隙間で...コノハの世界事情 歌詞

じん
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)

時給310円
Hello there!! ^-^
I am new to piapro and I would gladly appreciate if you hit the subscribe button on my YouTube channel!
Thank you for supporting me...Introduction

ファントムP
月夜(つくよ)の宴
永久(とわ)までもつづかまし
宵闇風誘ふ
花は今盛り
朧月は霞みてこそ麗しき
現なしこれは夢なりや
よも、きみ居ざらじや
いかがせむ
あるじまうけす
大人どもは...飛雁 歌詞

翠ノ香 八十日
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想