深夜の台所で包丁を握りながら、ふとまな板の上のネギを眺めていました。円筒形のその植物を輪切りにすると、中には美しい同心円が重なり、まるでレコードの溝のような幾何学的な模様が広がっています。もしもこの断面に針を落としたら、一体どんな音が鳴り響くのでしょうか。そんな突飛な想像をしながら、私はデザインの仕事でも同じような感覚を抱くことがあります。目に見える色彩や形は、実は凍りついた音の断片に過ぎないのではないか。ネギの断面が奏でるかもしれない、誰も聴いたことのないメロディを想像するだけで、頭の中には無限の宇宙が広がり始めます。
私たちは普段、音楽を耳で聴き、映像を目で見て、別々の感覚として処理しています。でも、創作の現場においてその境界線は驚くほど曖昧です。鮮やかな赤色は高音の電子音のように響くし、深い青色は静かなベースラインのように心に染み渡ります。野菜を切るリズムもまた、一つの楽曲と言えるでしょう。トントントンと刻まれる一定の間隔の中に、時折混ざる不規則な音の変化。そこにこそ、生命の息吹や人間らしさが宿っています。完璧に整ったデジタル音源よりも、台所から聞こえてくる生活の音の方が、時に深く感情を揺さぶるのはなぜなのでしょう。
ある時、私は空のペットボトルを叩いて出た音を、色に変換してみる実験をしました。その音は少し濁ったオレンジ色をしていて、秋の夕暮れのような温かさを持っていました。このように感覚を混ぜ合わせることで、表現の幅はどこまでも広がっていきます。歌詞を書くときも、単に言葉を並べるのではなく、その言葉が持つ質量や手触り、そして温度を感じ取ってみることが大切です。冷たい言葉、尖った言葉、ふわふわと浮き上がるような言葉。それらをパズルのように組み合わせていく作業は、新しい世界をゼロから構築していく神話の創造にも似ています。
ネギの話に戻りましょう。あの細い筒の中に詰まっているのは、ただの水分や栄養素だけではありません。そこには成長の記憶や、風に揺れたリズムが刻み込まれています。私たちが創作活動を通じて行っているのは、そうした世界の断片を拾い集め、自分なりの翻訳を加えて誰かに届けることです。誰かが作った完成品をただ眺めるだけでなく、身近にある何気ない物体の声に耳を澄ませてみてください。換気扇の回転音、雨粒が窓を叩く拍子、机の上の消しゴムが転がる音。それらすべてが、あなたの新しい物語を彩る重要なパーツになるはずです。
今夜は、ペンを置いて少しだけ目を閉じてみましょう。視覚を遮断した瞬間に、今まで気づかなかった色彩のざわめきが聞こえてくるかもしれません。世界は常に歌っています。私たちはただ、その歌に合わせて呼吸をし、心のキャンバスに筆を走らせればいいのです。不器用でも、誰にも理解されなくても構いません。あなたが感じたネギの断面の調べは、世界でたった一つの、最高に贅沢な音楽なのですから。そんな遊び心を胸に抱きながら、また新しい朝を迎える準備を始めようと思います。
【石田大顕】青いネギの断面に隠された波形を聴いてみる
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