何も無い世界からやっとの思いで抜ける事が出来た物の…また少し手詰まり状態になっていた。
「あっはっはっはっは!何回目かな?」
「うるせぇな…少しは手伝うとか出来ないのか?絵襾。」
「無理。」
叫んで、歩き疲れて、手を伸ばした先に『俺』を見た。そして同時にこの絵襾が現れた。あの何も無い白い世界に一人放り出された事を思い返すと今の状況は大分救いにはなっている。あの時学校で見た幽霊、俺はてっきり絵襾だと思っていた。だけど…。
「ほらほら、襲撃来る前にあの眼鏡さん逃がすんじゃなかったの?」
「判ってるって!」
俺はもう何回目か判らない『俺』への呼び掛けを繰り返していた。
「あーあー、また間に合わなかったねぇ。」
「はぁ…。」
絵襾は言った。『過去の自分に干渉する事が出来れば何かが変わる』と。そして俺は『幽霊を見た時』から『時計台で俺が消えた時』迄の何処かを変えようと試みている訳だが…。
「そもそも、何で俺はこんな事が出来るんだ?」
「偶然とか運命って思えば?」
「ふざけるな、このままじゃ埒が明かないだろ。お前なら判るんじゃないのか?」
時を越える力、自分に呼び掛ける力、今の状況を例えるなら俺自身が『言魂』みたいなもんだろう。
「君は僕と同じなんだよ。」
「同じ?」
「そう。僕や幎は思考型AIで一定の能力を設定されて作られた。言うなれば人工の脳みたいな
物なんだ。当然思考や判断なんかも求められるから知能もそれなりにある。」
「それが同じって言うのは?」
「つまり、僕の思考パターンや判断フローや知能数値なんかが君の脳とほぼ同じなんだよ。
クローンみたいな物かな?」
「……………………。」
「理解した?」
「気持ち悪っ!大体俺こんな服趣味じゃないぞ?!」
「君って結構暢気だよね…。」
思考型AIと同じ脳だと言われて喜ぶ人間が何処に居るというんだろうか?しかしそのお陰で俺の意識だけは残っていたのか…?複雑な気分だな…。
「あ…芽結…。」
「時計台に行く所みたいだね。またやり直さないと…。」
「…芽結泣いてないかな…。」
「ここは関係無いんだから、ほら戻ろう。」
そう言えば…俺、芽結にちゃんと言ってなかったな…。言おうとする度に色々邪魔があったり、事件があったりで…。
「芽結…。」
「流船?何して…。」
時計台目指して走っている芽結が見えた。伝えようと思っていたのに…まだ何も言ってないのに…芽結…俺は…此処に居るよ…気付いて…助けて…芽結…!
『芽結…。』
手を伸ばしたのかどうかはよく判らなかった。消えて行く中でやけにはっきりとスローモーションみたいに落ちるペンダントが見えた。
「――っ!残った…?!」
「え…?」
『流船…?流船…何処…?』
俺を探す芽結の手にペンダントが揺れている。
「消えなかった…?」
「時が動いたよ…流船。」
今迄とは違う光景が静かに映っていた。
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