―――どうして・・・こんなこと・・・―――
少女の目に写るもの、それは破壊され、燃え盛る街。
少女の耳に入るもの、それは街から聞こえる人々の叫び声。
全てが突然の出来事だった。
そう、この街は数時間、盗賊の群れに襲撃された。
荒ぶる盗賊と馬の声がこだまする。
「いい?此処から真っ直ぐあの丘の上まで走るのよ。」
「え・・・でもお母さんは?お父さん、お姉ちゃんは!?」
「・・・何があっても振り向かず、ひたすら丘の上まで走るのよ。・・・大丈夫、また会えるわ」
少女以外の家族は、武器を携え、少女を笑顔で見つめていた。
「・・・約束だよ。絶対だよ!」
「さあ・・・行きなさい」
そう母親に促され、少女は懸命に丘の上まで走る。
「そして・・・私達の分まで生きなさい」
母親は頬に伝う涙を拭い、武器を構えた。
「う・・・うぅ」
丘の上に着いた少女は、街の悲惨な状態を見て、泣く事しか出来なかった。
目を開けたら眩しい朝日が飛び込んできた。
「私、寝ちゃったんだ」
見上げれば昨夜の惨劇が嘘のような気持ちの良い快晴だった。しかし、見下ろせば朝日が絶望の街を照らしていた。
重い足取りで街へ降りる。少女の目に入るのは、瓦礫の山と化した石造りの家、瓦礫から出ている人の腕、切り刻まれた死体といった残酷な情景が広がっていた。
しばらく呆然と街を歩いていたら何かを踏む。足元を見たら血が付いているが見覚えのあるブローチだった。私は驚愕した。
「お母さん・・・」
母がいつもしていたブローチだった。私が生まれた時の記念に買った宝物。これを見た瞬間、今まで麻痺していた脳が初めて家族の死を認識した。
廃墟と化した街で私は一人。そんな絶望の末にたどり着いたのは唯一原型をとどめている教会だった。
私は家族とこの街の冥福を祈った。その後に生まれたのは憎しみだった。
「許さない・・・許さない」
泣きながら呟く私の前に現れたのは、今まで目に入らなかった剣。
「教会に入った時には無かったはずなのに」
そう言った直後に、私は一歩身を引く。突如その剣に暗闇がおび始めた。
普段なら恐怖し、逃げ出す所だが、何も縋るものが無くなった私にとって、その暗闇は希望の光に見えた。私は躊躇なく剣を手にする。
―――アナタノ願イヲ叶エテアゲル・・・―――
剣から聞こえる声。しかし、不思議と恐怖は無かった。
「あなたは誰?」
―――私ハ、コープス。剣ソノモノノ存在。知ッテルヨ。アナタハ大切ナ家族ヲ殺サレテ憎シミヲ抱イテイル。叶エテアゲル。今アナタガシタイコト―――
今私がしたい事・・・そんな事は決まっている。
「許さない・・・私の家族を、街を奪ったあいつらに同じ思いを味あわせてやる・・・」
―――ナラ、アナタノ体ヲ貸シテ―――
その時、剣に纏っていた暗闇、もとい、コープスが私そっくりの姿になった。私は両手を広げ受け入れる。コープスが私の中に入ってきた。
―――サア、行キマショウカ・・・―――
「しかし、今日も良い収穫だったな」
「全くだ。見たか?あいつらの怯えた顔。傑作だったな」
野太い盗賊達の笑い声が森の中を木霊した。杯を交わす者もいれば、奪った街の品々を眺める者もいた。
浮かれ気分が散漫している闇に更けていく森。その闇に紛れ盗賊達に近付く一つに合わさった二つの影。
漆黒の森に叫び声が一つ、また一つと響き渡る。その異常な事態に盗賊達も武器を取る。
「何だ今のは・・・」
その瞬間、すぐ近くで断末魔の叫びをあげ、倒れる男。
「誰だ!」
倒れる男の方に目を向けると、月明かりに照らされているが、どこか暗闇を纏っている少女が剣を片手に立っていた。そして、気付く者は気付く。
「おい、影が二つあるぞ・・・」
「ば・・・化け物」
次々と戦意喪失し恐怖する盗賊達。
「くっ、てめえは誰だ!」
―――ソウネ・・・強イテ言ウナラ、アナタ達ガ襲った街ノ怨念カシラ・・・名乗ル必要ハ無イ。ダッテ、コノ子ガアナタ達ノ生キ血ヲ欲シガッテルカラ―――
コープスを人差し指で撫でた後、信じられない速さで盗賊達を切り刻む。あっと言う間に残るは一人。
「待ってくれ・・・助けてくれ・・・ここにある物好きなだけ持っていって良いから」
―――ダーメ。コノ子ガ欲シイモノハ、アナタノ生キ血―――
そう言ってコープスが盗賊の腹に突き刺さる。―――オイシイ?・・・ソウ、ヨカッタ―――
腹に刺さった状態でコープスを持ち上げる。上半身が縦に割れる。
一瞬にして惨劇と化した森を見て、私はしばらく呆然としていた。
「ありがとう。コープス。これでみんなの死が報われる気がする。」
―――コノ子モ生キ血ヲ欲シガッテタカラ、アナタニハ感謝シテルワ―――
「それじゃあ、私の体を返して」
私がそう言った瞬間、コープスの態度は一変した。
―――・・・馬鹿ネ。コノママ返スト思ッテルノ?
ヤット体ヲ手ニ入レタノヨ。コノ子モマダ足リナイッテ言ッテル。コノ体ハモウ私ノ物・・・―――
「そんな!嫌だよ!」
―――何故?アナタノ願イハ叶エタ。ダカラコノ体ヲコノ後ドウシヨウガ私ノ勝手。大体体ヲ返スナンテ一言モ言ッテナイデショ?―――
「嫌だよ!関係ない人を殺したくない!それを見たくない!体を返してよ!」
その時、体が二つに分離しかけているのにコープスは気付いていない。
―――何ヲ言ッテモムダヨ。アナタハ「コープス」トシテ一生ヲ終エルノ―――
「違う!私はコープスじゃない!私の名前は・・・ミク!」
自分の名前を力強く叫んだ後、神々しい光が体から溢れてきた。
気が付いたら私はあの森で倒れていた。私の意志で立ち上がれた事を確認すると、正真正銘私の体だと認識出来た。コープスはというと、剣が二つに折れていて、纏っていた暗闇もすっかり消えていた。
そう、全てが一瞬だった。街も家族も全てが一瞬で消え去った。私の存在まで消えてしまう所だった。生まれたものもある。経緯はどうあれ、沢山の人を殺してしまったという事実。ポケットに入れていた母のブローチを握りしめ、漆黒の森をただひたすら歩いていった。
コープス・・・人の生き血を吸い続ける、決して人が触れてはいけない・・・魔剣。
Corpse
骸Attack!!というよりは風呂場の人さんのPVの物語を自分なりに広げてみました。(http://ameblo.jp/furobanohito/entry-10644125358.html)
PVもカッコいいのでぜひご覧になってください!
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