午後が過ぎ、夕刻となった。
こうしている間にも、作戦開始の時間は刻一刻と近づいてくる。
雪峰は、その持てる限りの全ての性能を発揮して興国に迫っている。
それまで、なぜか何もできない自分が歯がゆい。
これは、自分のための戦いでもあるのだ。
何故俺達は今まで戦ってきたのか、という謎の真相を解き明かすための。
今から作戦を開始しても良いぐらいだ。
そんな俺に、気野は「作戦の時刻は深夜だ。睡眠を取っておいたほうがいい。」と適切なアドバイスをしてくれた。
にもかかわらず、俺は今こうして広大なフライトデッキの上に独り立ち、今にも水平線に沈みかける茜色の太陽を見つめている。
本当に、俺は変わったやつだ。
「どうした。こんなところで。」
重く、鋭く、かつ若さのある声。ソード隊の隊員ではない。
考える前に声の主が誰なのか確かめるため、振り向いた。
「タイト。」
俺の隣に立っているタイトは、なにやら変わったボディスーツを着用していた。見たところ、アーマーGスーツの素体のようだが。
やはりタイトが・・・・・・。
「いや、なんでもない。ただこうしていたくてな。」
「そうか?夕日を見ていたのかと思った。」
タイトは俺に対して普通語を使うが、俺はそんなことはまったく気にしていない。
むしろ暗い性格だと思っていたタイトがこうして話しかけてくることを珍しく思い、俺は話を長引かせようと思った。
「タイトこそ、どうしたんだ。」
「ん、ああ。一人になりたくてな。」
「俺と同じだ。」
「そうか。」
タイトがにやり、と笑みを浮かべた。
以外にも、それはいつもより優しく見えた。
「どうだった。大尉との決着は。」
「引き分けさ。俺の腕とあいつの足が互いに同時に食らったのさ。」
「フフッ。もしかしたら、大尉も強化人間かもしれないな。」
「ああ・・・・・・。」
タイトが突然、物寂しげに視線を落とした。
そのとき、俺はあることに気がついた。
キクが居ない。いつもタイトにぴったりくっついて離れなかったキクが。
当然といえば当然だが、タイトにもやはり寂しく感じているのだろう。
「寂しいか。」
タイトは意表を突かれたように驚いた。
「何がだ。」
「キクさ。」
「・・・・・・!」
「・・・まぁ、座るか。」
俺とタイトはコンクリートのフライトデッキに腰を下ろした。
「寂しい・・・・・・か。確かにそうだな。」
「お前の愛人だろ?」
「キクは・・・・・・そんなものじゃない。愛人とか宝物を超えた・・・・・・俺のかけがえの無い大切なものだ。こうして傍に居ないだけでも、随分寂しいものさ。」
タイトは半分海に沈んだ太陽を眺めながら言った。
「なら、絶対に生きて還らないとな。」
「もちろんそのつもりさ。だが・・・・・・。」
タイトが口ごもった。
紫の瞳の中に、何かを覚悟したようなものが浮かんでいた。
「もし俺が還らなかったら、その時は、博士にキクを頼んである。」
「何を言ってるんだ。キクにはお前しかいないだろ。」
「・・・・・・そうだな。俺にも、キクしかいない。キクがいればそれでいい。」
そう、偽りのない意志のこもった声で言ったタイトが、俺には凛々しく見えた。
タイトは、根は純粋で、好きな人には一途思いをもついいやつかもしれない
いや、そうに違いない。
「キクだけじゃない。」
「え。」
「ワラとヤミがいる。」
「そうだ・・・。俺の大切な仲間だ。」
「ところで、タイト。」
「ん?」
「その二人が誰に作られたかは知らないか。」
無駄だということは分かっていた。
それでもそうせずにはいられなかった。
「いや・・・・・・知らない。名前までは。」
「名前までは?」
タイトは何か手がかりを知っている・・・・・・?
「一つ言えることは、博貴博士と密接な関係を持っている、ということだけだ。」
「何故知っている。」
「改造され、軍に配備される前に調べたのさ。」
密接な関係?
クリプトンの上司?
個人的な何か?
家族関係?
いや、まさか・・・・・・。
「でも、どうしてそんなことを。」
「いや、博士も、ワラとヤミの開発者が分からないといっていたからな。」
「・・・・・・あの二人は、俺とキクが戦闘用に改造され、一ヶ月が経ったころ完成したのさ。俺達が改造されたころにはもう開発していたたらしい。ワラは、ミクとキク。ヤミは俺とミクがベースだと言われた。キクはいいとして、二人とも最初は手を焼かされた。どういう訳か、俺が世話係をやらされたんだよ。」
タイトは懐かしそうに語りだした。
興味があったので、聞いてみることにした。
「それで?」
「ワラは最初、心を閉ざしていて、何に対しても消極的で、必要なときだけボソボソと話すようなやつだったのさ。」
あの、ワラが?
「本当か、それ。」
「ああ。だから、俺はワラにいろいろと構ってやった。話をしたり、遊んだり、監視つきで施設から出て外を散歩したりもした。そうしていたら、段々と明るくなって、今じゃ違う意味で手を焼いているけどな。」
い、いい話だ。
何という美談だろうか。
今のタイトが嘘をつくとも思えない。
「ヤミは元々ああだったが、そのあとあることに気がついたのさ。」
「どんな?」
「あいつ、けっこう寂しがりやなんだ。」
「意外だな。」
「だろ。でも、隙さえあれば、ヤミもキクと同じなんだ。」
「お前にべったりか?」
「そんなとこさ。しかも、あいつ物覚えがいいもんだから、いろいろと積極的でな・・・・・・。」
タイトが俺を見てにやり、と笑った。
俺もそれにつられて思わず吹き出した。
「ちくしょう羨ましいな!」
「あんたにもいるだろ。大切な、人が。」
「俺には・・・・・・。」
タイトの言葉に、俺は言葉を詰まらせた。
大切な人。
家族とは、もう何年も会っていない。もはや会おうとも思わない。
俺には愛人もいない。
いるなら、水面基地の皆。
何よりも、俺のソード隊の、掛け替えのない部下達だ。
「ああ・・・いるよ。俺にも、大切な人が。」
「そうか・・・・・・。」
俺とタイトは、しばらくほぼ沈みかけた太陽を眺めた。
「絶対に・・・・・・生きて還らないと。」
「ああ・・・・・・そうだな。」
「みんなが待ってる。」
「ああ。」
俺達は、水平線の果てに沈んだ太陽が照らし出す茜色の空を眺め続けていた。
作戦開始の時間まで、あと七時間。
任務目標が増えた。
「全員生きて還る」だ。
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