ドッペルゲンガー
自分ともうひとりの自分

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登場人物

リゾラ

りく

トオル

希(ゾム)

シアル


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…例えばこんな夢を見る。


自分と正反対で、
勇気があって、優しくて、
誰にも忘れられないで、
たくさんの人に憧れられ、
歴史に残るような、
世界の誰よりも強い、
みんなに、笑顔を届け、大切にされる存在に、










でも、そんな夢がー
ー叶わないことは、


とっくの昔に知っていた。

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希望も、光も、何も見えない。


なにかの音も、なにかの感触も、


なにもかもとどかない。


笑い声も、笑顔も、ない。


静寂な空気が身を覆うだけだ。


悲しみも、涙も、ない。


暗闇の中で、瞑目するだけだ。


怒りも、苦しみも、ない。


感情を出しても、見せる相手がいない。


無駄だ。


願い、祈り、

誰に捧げる?

聞くことも、話すことも、

相手なんて、仲間なんて、

いないんだから。
 
誰も、いやしない。

誰も、待っていない。

誰も、望んでいない。

心がむしばれようが、

倒れようが、

誰も来ない。

もう一回言おう。

希望も、光さえも、何も、

見えない。


俺のドッペルゲンガー、
俺と交換しよう。

俺の途方もない人生を生きてくれ。
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中庭で、彼ー
ートオルは歩いていた。

いつも綺麗に咲き誇り、散ることのない花を見つめていた。

なにか物音がし、 
彼の本能で、たちあがった。 

『?』

背中が凍りつくような気配を感じた。

こ、れは…、

とてつもなく強い…。

ぼやけてた影がくっきりと見え、

彼は自分の目を疑った。

そこにいたのはー

『どう、して』

『リ…ゾラ?』

「…誰ですか。」
ドス

トオルは、両膝をついた。

『そんな、』


「………」

リゾラ、に、そっくりな少年は、
こっちに歩み寄ってきた。

その動作には一つのブレもなかった。

ああ…、似ている…。

あいつ、も、
いつも堂々と、

歩いてた、な。

『お前…、な』

『何処行って、たんだよ。』

「…?」

「…僕は貴方のことを知りません。」

「貴方が探していた人とは、人違いです。」

『…じゃあ、お前は、誰、だ?』

「その質問には答えられません。」
「むしろ、こっちが聞きたいです。」

『お〜い、闇葵(やみい)』

向こうから、兵士だろうか、

赤色のレーザーアーマーを着た、男が走ってきた。


『何処行って…!?』
男がトオルを見ると、目を剥いた。

すぐに慌てて、膝をついた。


『申し訳ありません!!』

「…?」

「ちょうど、今困っていたところだったが…、」


「急にこいつに話しかけられてな。」

『ばっ…!このお方は、将軍でも、軍の幹部の方なんだよ!』

「…?」


「俺は、そんな身分など知らないし、そもそも、人違いなのに話しかけられて困ってたんだ。」
「俺は平伏などしない主義なんで。」

トオルはその態度に、感心した。

いや、呆れたのが正しいか?




『ちょっ、』

『す、すいません、こいつ言う事聞かなくて…!!』

『無礼を、お許しください!』

『ほ、ほら、はやく、行けって!』 

急いで少年の肩を押していた。

「何そんなに謝ってるんだ?」
首を傾げながら、こっちを見てきた。



「先に聞いてきて、困らせたコイツが悪いんだから、別に謝らなくてもいいだろ?」

その発言に、また男は目を剥いた。



『だから行けって!』
『ほんと、すいません!』

『どうか、コイツじゃなくて、俺を罰してもいいんで!』

『あ〜…いや、』

『ちょっと、待って…?』

『…なんでしょうか?』

『え〜と…、』

『その…彼は、どこ出身なの?』
男は、いささか驚いたあと、真面目な顔で考え始めた。

やがて首を傾げ、こう言ってきた。
『いや、あいつの出身、知らないんすよ、』

『あいつ、
    なんで。』

その言葉が、聞き取れなかった。


あまりにも、

信じられなくて、

『あの~…?』

『ああ…、大丈夫だ。』
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『まさか…、君が、リゾラの子供だったなんて…ね。』

「人違いです。」
「僕に、もともと父はいません。」

『………』  

『とりま、聞いてくれるかな。』

『ここじゃあ、あれやから、』
『むこう、いこっか…、』

歩きながら、トオルさんは言った。
『…君を…、中庭で見つけたときは、ほんとに驚いたよ、』
『彼が、昔の姿のままで、現れたんだと、』

『…彼、君のお父さんは、リゾラといって、』

『その時、まだ世界に一人しかいない、闇使いだったんだ。』

『その時の名は、漆黒の騎士、て、呼ばれてたんだ。』

「その名は聞いたことがありますが、俺は一度も、父の話を、聞かされたことはありません。」

『多分…内緒にされてたんだね。』

『…これから話すことは、辛いかもしれない。』

『それでも、君の父…、(かもしれない)リゾラのことを、聞きたい…?』

僕は、僕にも、父はいた…?
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教えてもらったとおり、森の中へ行った。

いくらか歩いたとき、

誰かの気配がした、

すぐに身を伏せた。

そっと、覗き見ると、
誰かの背中が見えた。


緑色の影ー



−すなわち、希が立ち尽くしていた。

…、

ゾム…。

なぜ、父の墓に…?

呆然と立ちつくしながら、

墓を見下ろしていた。

トオルさんの声が脳裏を過ぎる。


『ゾム…、希は、』

『君のお父さんと、組んでいたんだ。』

『希が敵に捕まったとき、』

『君のお父さん…、リゾラが、希を…助けるために、命と、引き換え、して、死んだんだ。』

『希は、今も、そのことを、後悔してる。』

『だから…、あいつのことを、許してやってくれないか』

彼は、その声を断ち切るかのように首を振った。

いつもどおりの冷静な顔は、どこか、


恐ろしく感じた。
彼は立ち去った。

トオルさん…、僕は、当分、あいつのことは許せそうにないです。

ザザッ


『…?』

『だ…れか…いるの、か?』
その声は届かなかった。
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彼はやるせない気持ち、怒りを、表情の下に隠しながら、1人思いにふせた、




   のことを知ってるのに、

俺だけ、なんで、

外されたんですか、

なんで、誰も、   のことを教えてくんなかったんすか、


俺は、父のことも、母のことも知らない。生きていない。



あいつが…、あいつ等が、知ってることが、


俺は恨ましく思えます。


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俺のドッペルゲンガー、
お前はどこにいる?

俺と交換しよう。

おれの人生お前にくれてやる。


だから、今度こそ
生まれ変わるときは
マシな人生を
歩ませてください。
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『リゾラ…か、』


突如聞こえてきたその声に、シルアはぎょっとした。

誰?

なんでその名を?

『“アレ”と一緒なのか。』




なんだろ、

何も聞こえなくなった。


…静かすぎない…?

影から、そっと見た。

もう、誰もいなかった。

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実を言うと、悩んでいる。

最近、僕が、
リゾラの子孫説、

から、有名になったけど、


どうしても、信じられない。


僕なんかが、子孫なわけ無い。

僕が、そいつの子供だったら…。

「大事にされてるだろ…。」

はっ、と周りを見渡した。


よかった。

誰も聞いてなかったみたいだ。



他のヤツが、リゾラの子孫なんじゃないか?


他のヤツが、崇められるべきじゃないのか?


僕はリゾラじゃない。




僕は璃空じゃない。




僕はリヴァ、

和名はそらだ。


ようやく気づいた、僕の存在に。

僕はここにいるべきじゃない、





誰か、誰にも気づかれないで、僕を生きてくれ、


誰か僕と交換しよう、

僕の代わりに、生きてくれ、






僕の、ドッペルゲンガー、

君はどこにいる?



屋根の上で、ひとり寂しく悩んでいた。

風が強く吹いていた。
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ようやく見つけた
僕のドッペルゲンガー、
僕と交換しよう。


さよなら、
もう一人の僕。

もう、会うことはない。

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どうも様子がおかしい。
僕は違和感に気づいた。



僕の体が、消えてゆく、

ちょっと待って、知らない、
どうしてなんだ。


僕は何なんだろう、
ねぇ存在を返して。

『もう貴方の居場所は
此処にはないことわかってるんだろ。』

『ねぇ奪われたんなら
奪えばいいだろ
今度はお前の番だから』



「お前は誰だ」

『俺はお前だよ。』

僕の侵略者は笑う。

僕とドッペルゲンガー、

それはそれは僕、

もう帰らない僕の時間、

僕の前から消えてゆく。


さよなら、全てよ


どうぜ消えるなら、いっそ、高らかに消えてゆけ。



『俺がちゃんと生きてやるから
君も俺を生きてくれよ、』
『わかってるんだろ、
何をすればいいかさ』

誰か僕に奇跡をくれ、

蝕まれた存在に世界が気づこうが、

誰も助けてくれやしない。

ここで、
僕がした業が、
返ってくる。

もう
取り返しの
つかない、
過ち、


どうぜこうなるんだったら、

ちゃんと僕を生きればよかった。

さよなら全てよ


僕を忘れて、






偽物の僕が、世界を助けてくれるさ
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例えばこんな夢を見た。


自分と正反対で、
勇気があって、優しくて、
誰にも忘れられないで、
たくさんの人に憧れられ、
歴史に残るような、
世界の誰よりも強い、
みんなに、笑顔を届け、大切にされる存在に、





俺のドッペルゲンガーと引き換えに。
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「お前の人生
生きてやるさ。」



僕ともう一人の俺

人生を交換して

消えてゆく


世界を騙せ



僕のドッペルゲンガー

ーー
…end


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最後までお読み下さり、ありがとうございました!

『拝啓ドッペルゲンガー』様の歌の歌詞を、少し引用させてもらっています。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ドッペルゲンガー 自分ともうひとりの自分

こんにちは、

小説に『拝啓ドッペルゲンガー』様の歌詞の一部を入れさせてもらっています。

何かあれば、返信お願いいたします。

閲覧数:113

投稿日:2020/12/02 18:16:52

文字数:4,829文字

カテゴリ:小説

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