昔々、あるところに尾羽打ち枯らした中年男がおりました。その男はヨメが欲しくて欲しくて、もう死にそうに切ながって、いろいろと変なものを体中からたれ流しておりましたので、周りの人達に『うぇ~』と言われ続けていました。そんなしょうもない男を哀れんだのか、小汚い中年男にも、親切にしてくれる人が現れたのでした。その人は上品な物持ちのお金持ちで、品のいい香水の匂いをさせている女の人でした。きも中年男はもう嬉しがってうれしがって、矢も盾もたまらなくなって、躍り上がらんばかりになったかと思うと、突然に心の臓が止まって、死んでしまいました。『うぇ~』周りの人はいっせいに顔をしかめて、そっぽを向きましたが、女の人は、あまりにも哀れと思ったのでしょうか、男の亡骸を肩にひょいと担ぎ上げて、すたすたとあるきだしたのです。女の人は、何故かカンカンになって怒っていました。女の人は身体中泥だらけになって、スコップで丘の上に大きくて深い深い穴を掘り、きも中年男だった亡骸をその中に思い切り投げ落として、ものすごい勢いで土をかぶせていって、埋めてしまいました。それを遠巻きに見ていた人達は、その勢いの物凄さに息を呑んで立ちすくんでおりました。女の人は目を三角にして立ち上がり、遠巻きにしている人達をにらみつけて『石を持って来い』と叫びました。しわがれて野太い、まるで巨大な老人のような大音じょうが響き渡ると、見ていた人達は、震え上がって肝っ玉がすっかり縮み上がってしまい、おろおろと周りを見回しては、てきとうな石を探してうろうろし、手に手に石を持って、おずおずとその丘の上に近づいていきました。『ちいさすぎるじゃあないか、もっと大きい石をもってこれないのかい』泥まみれの女の人のものすごい怒声に叱り付けられた人達は、もうすっかり言いなりになってしまって、あちらこちらから大きな石を探し出して、両手でようやく抱えた重い石をようように肩で息をしながら運んで、丘の上にやってきました。『そんなんじゃまだまだ駄目だよ、いいかい、それはお墓にするんだ。そんなちっぽけなものじゃあ、このさみしい男は早々に化けて出るに違いないから、うんと大きい石を墓石に建ててやって、化けて出れらないようにしなくちゃあ駄目なんだよ』女の人は、集まった人達に言って、指をさしました『ほら、あれぐらいのものを持ってこなくちゃあいけないんだ』みなが指の先の、もっと先を見てみると、一人の痩せこけた男が、半ば地面にうずもれた大石を、両腕で抱え持とうとして大汗をかいておりました。その様があんまりにも情けなく見えたので、人達はなんだか気持ちがつめたく硬くなってしまって、お互いに顔を見合わせて黙ってしまいました。泥だらけの女の人は、そういう皆の顔をみるなり、みるみる不機嫌になって、まるで朱に塗ったように真っ赤になって怒り出しました。その形相にたまげて、中にいた幾人かははじかれたように、大石めがけて走っていきました。一人で大石に抱きついていた男は、ぶつぶつと独り言を言っていました。『重いよう、こんなの、持てないよう、できないよう、できない、できない』何人かが、猛烈な勢いで走ってきて、大石にかじり付きましたが、石は根が張ったように重くてびくとも動きません。『できない、重いよう、動かないよう』痩せこけた男はそういってわあわあ泣きました。みなは、なぜだかひどく申し訳ないような心持ちになってしまいました。『それは、てこをいれなきゃ、動かないんじゃないか』通りすがりのような、旅装束の男が近づいてきて、いいました。『そうだそうだ、だれか太い棒を持ってきてくれ』『長い棒と短い棒がいるぞ』みなはそのよそものの言葉を聞くと、口々に思いついた事を言い始め、やがて全員が一心になって大石を動かし始めました。その大石が、ほんのわずかに動いた時、みなはもうへとへとに疲れ果て、あたりは一面の夕焼けで、地面の上のあらゆるものが真っ赤に燃えていました。『うわぁ、あんたは』一人が突然、素っ頓狂な声を上げて、腰を抜かしました。『なんなんだ』みなは吃驚して、腰を抜かした男を囲みました。『あんたは、し、死んだ』震える指先の先には、尾羽打ち枯らした、痩せこけた中年男が立っていました。『う、うわぁ』『ヤメテ』疲れきって逃げるちからも残っていない人達は、一様に腰を抜かし、這いずり回りました。痩せこけた男はわあわあ泣きました。その泣き声を聞いているうちにみなは、最初に大石に抱きついていたのは、この男に間違いないとはっきりわかったので、一寸落ち着きを取り戻しました。『どうしてなのか、まったくわからない』『死んでなかったということなのか』『埋まっているのは誰なんだ』中年男はただただ泣くばかりで、みな何もわかりませんでした。そうして、誰が言うともなく、丘の上に向かってみなが歩き出しました。夕焼けに真っ赤に燃える丘の上には、真っ赤に錆びたグローブジャングルが、風を受けながらゆっくりと回っていたという。おわり。

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怪奇日本昔話

まえに某所にアゲた雑文(即興)

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投稿日:2009/12/22 01:37:49

文字数:2,061文字

カテゴリ:小説

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