miss-you

第八話 病室にて


ピッ。ピッ。しゅこー。

ピッ。ピッ。しゅこー。

規則正しい電子音と呼吸音がその部屋を支配していた。

「せいちゃん…私帰って来たよ。」

「…」

「遅くなってごめんね。必ず、助けてあげるから。だから、もう少しだけ待ってて。」

「…」

部屋の主は、微かに笑った様な気がした。あり得ない事なのだけど。

彼が眠り続けて、もう三十年はすぎているだろうか。幼かった顔立ちも、いつの間にか大人の顔になっている。

彼が八歳の時、ご両親は交通事故で他界してしまった。ふさぎ込む事が多かった彼を、私はよく遊びに誘ったものだ。

あの日もそうだった。

近くにある公園まで、競争する事に。彼よりは足が早かったのですぐに抜いてしまい、先を走る私。そしてそれを追いかける彼。ごく平凡なはずの風景は、一瞬にして崩れ去ってしまったのだ。

一台の車が通りすぎた。

私が後ろを振り返った瞬間、彼は空中にいた。

そこからは思い出したくもない。

すぐに人が駆けつけ、全身血だらけの彼は救急車で運ばれる。私も乗った。

病院につき、彼は当時最高の医療技術を駆使されたおかげで一命を取り留めた。

だが彼は、二度と覚めない眠りの世界へ旅立っていたのだ。

クラスメイトに彼の事について報告があり、みんなでお見舞いに行く事になった。

彼の姿を一目見て泣いた女子がいた。

子供たちは口を揃えて言った。彼を救う手立てはないのか、と。

大人たちは重い口を開けて言った。今はこれが限界だ、と。

そして、誰かが言った。今はまだ無理なら、自分たちが大人になった時に彼を助けてあげればいい、と。

そして、私たちの戦いが始まった。ある者は医師を目指し、ある者は資産家を目指し。個々の力を組み合わせて彼を助ける為に。

そして、私は脳医学の道を進んだのだ。彼が目覚めるきっかけを、私の手で作りたかったのだ。

そして、私は今、ここにいる。


「よし、行動開始と行きますか!」

まずはクラスメイトたちに連絡を取る事にした。みんなの協力は不可欠だったから。

連絡した翌日には全員揃ったのにはさすがにびっくりした。

彼を救う準備が整った事をみんなに話して意見を求めた。

すると、一つ懸念される事が見つかったのだ。

私が作った「マイメモリ」を使えば、彼を目覚めさせる事が可能になる。だが、彼はあまりにも長い時間を眠っていた。三十年間かけて学べた事を何一つ学べてないまま目覚める事になる。

それでは彼が目覚めた時、大変な思いをするに違いない。それはかわいそうだ。

じゃあ、どうすればいいのだろう。

すると一つの意見が出て来た。

マイメモリで彼に学習させる方法を考えてみたらどうかな。

けど、マイメモリは個人のバックアップにすぎないの。彼のデータは圧倒的に不足しているのよ。

誰かのマイメモリと彼のマイメモリをつなげる事はできないのかい。

機械を作れば最大で五人までならできるけど、データの互換性はないに等しいと思うよ。

それなら、共通の記憶を軸に、彼と同じビジョンを見る事はできるのかな。

実験では短時間なら成功したけど、長時間はまだ試していないよ。人体への負担がどの程度かまだ解らないの。

それなら、我々作家組は彼に学んでもらう為の物語を作るよ。だから…

では、我々技術班は機械の作成をするよ。だから…

それでは、我々医療班は万全の体制を作るよ。だから…

私たちは、特別な事はできないけど、何でも協力するよ。だから…

だから、始音!みんな一緒に星を助けよう!

ありがとう、みんな!よし、作戦開始!

おー!

ここで始音に逢って、ここでこうなって。…いやいや、こうした方がより効果的だ。

星のマイメモリに入力ラインを二つ。始音のマイメモリの出力ラインは一つで、星の入力ラインにつなげよう。みんなのマイメモリを十個つなげられる様にして、五個づつつながる様に切り替えスイッチを作って…

点滴や経管栄養を用意しておこう。各種モニターも必要だな。

私たちが分担して一つの世界のビジョンを作るんだね。


そして、支度は整いました。

───待ってて、せいちゃん。

───今、逢いに行くよ。



「久しぶりだな、始音。」

あの後、数分後に始音が社長室に突入してきたのにはびっくりした。

「そうね。元気だった?」

「さあな。ほれ、注文の部品はここにある。これでいいのか?」

そう言って、リストを渡す。中身を確認する始音。

「うん、これで大丈夫だよ。ありがとう、せいちゃん。」

「ああ。…なあ、始音。もう、行くのか?」

「うん。もう行かなくちゃ。」

「そうか。…ありがとう。」

今、伝えなくてはいけない気がした。

「え?」

もう、キミに逢えない様な気がするから。

「ここまで、来てくれてありがとう。」

そして、やっと解ったから。

「せいちゃん?」

俺が帰るべき場所に…

「俺を見つけてくれて…」

そこに、本当のキミがいる事を。

「…」

たくさんの仲間が待ってる事を。

「俺、行くよ!」

…キミが教えてくれたから。

世界が、俺が、始音が。全てが光に変わる。

───せいちゃん、こっちだよ。

───うん。


《再生プロトコルの正常終了を確認しました。世界を作った五人、始音、星の順に覚醒します。》


───世界って、まぶしいね。


「…ん…」

あっ、気が付いた?

「…りがと…」

せいちゃん!せいちゃん!

熱い熱い。

全くだ。見てらんねえ。

満腹満腹、ごちそうさま。

「…みんな、ありがとう。」

おう。おかえり、星!



ただいま。




【完】



[次回予告]

え?終わりじゃないの?なんて言わない様に。後日談があります。次回[幸せの形]をお送りします。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

miss-you

これにて終了。嘘予告の通り、本当はエピローグがあったんだけど、書いたものを紛失したので。

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投稿日:2017/11/10 14:35:07

文字数:2,438文字

カテゴリ:小説

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