「俺は俗に言う完璧主義者なんでね。自分が納得した音楽を試行錯誤して作り上げてる。だから歌う人間も上手いヤツにしか興味がないんだ。お前のような音痴なんぞに構っている暇もなければ、お前をここ住まわせて養う義務も無い」
「そんな排他的な考え方を持っていて、よくあのような素晴らしい音楽を作れますね」
幸宏は「音痴で世間知らずなお前には一生分かるまい」と目つきを鋭くさせて言い捨てた。普段なら涙目になるミクであるが、今日の彼女は違っていた。
蛇に睨まれた蛙ではなく、彼の剣幕に動じず、毅然とした態度でいる。貴方の脅しのような物言いに動じないぞと言わんばかりの表情で、音楽に対して確固たるこだわりを持つ幸宏の黒い瞳を一点に見つめている。
幸宏もこれほどまでに態度を揺るがせないミクを初めて見た。彼は、ミクの長袖のセーターの胸倉をそっと放してやった。
「そこまで言うのなら、俺が納得する、その歌とやらを聴かせて貰おうじゃないか。腐っても歌う種族、『ボーカロイド』なんだろ? 納得しなかったら、今度こそ出て行って貰う」
幸宏は高を括っていた。彼女が音痴なのを知っているくせにわざと不利になるような不条理な条件を突き付けたのだ。
(どうだ、音痴のお前が、こんな条件を飲むわけがあるまい)
しかし、彼女の返答は予想を反していた。
「分かりました。たとえ音痴でも素晴らしい音楽を様々な人達に届けられることを教えて差し上げます」
ミクの瞳には轟々と燃えたぎる熱気が窺える。
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