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数日後の、夕方のやや暗い喫茶店。授業が全て終わり、幸宏は由佳里に頼まれていた講義の不明点を解説し、昨夜即興で作曲したインストゥルメンタル曲を、モバイルパソコンを介して彼女に聴かせてあげていた。
「今までの乃木君の作った曲にしては、角々しくないというか、少し余裕を持たせているというか、と...Fragile angel 21
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一曲を歌いきり、ミクは再び幸宏に語りかける。
「幸宏さん、如何でしたか」
「素晴らしい、素晴らしかったよミク。お前に、いや、君にはまず謝らなければならない。今まであねような酷い扱いをしてしまって、本当に申し訳なかった。好きなだけ殴っていい。許してくれ……」
幸宏はベッドから床に座り込み、立ち塞が...Fragile angel 20
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間奏に差し掛かった。ミクは片手で頭を抱える幸宏のもとへ歩み寄った。
「幸宏さん、私は腐っても、歌う種族、『ボーカロイド』です。ボーカロイドは、自分の歌声に自身の感情を乗せて歌うことができるのです。嬉しい気持ちを乗せれば聞き手は嬉しい気持ちを、暗い気持ちを乗せれば聞き手も暗い気持ちになります。私はボ...Fragile angel 19
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「貴方にとって 私は堕天使 壊れて会った 私は堕天使 貴方は泣いてる 心で泣いてる」
ミクは語尾を伸ばし、フェードアウトさせて瞼を閉じた。
歌唱力は相変わらず並以下である。歌いだしのキーが合わず、ブレスが遅れ、旋律を時折間違えている。
しかし、今までの彼女の歌う姿とは、はるかに違っていた。
(...Fragile angel 18
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〇 〇 〇
デスクトップパソコンを起動し、ジュークボックスのアプリケーションを起動させる幸宏。彼女が何故あの条件を飲んだのか分からずにいた。
(何故だ、何故条件を飲んだんだ)
暫しすると、アプリケーションを制作した企業のロゴが現れて数百ある楽曲が五十音順にリストアップされた。
「さて、ここから自...Fragile angel 17
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「俺は俗に言う完璧主義者なんでね。自分が納得した音楽を試行錯誤して作り上げてる。だから歌う人間も上手いヤツにしか興味がないんだ。お前のような音痴なんぞに構っている暇もなければ、お前をここ住まわせて養う義務も無い」
「そんな排他的な考え方を持っていて、よくあのような素晴らしい音楽を作れますね」
幸宏...Fragile angel 16
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「幸宏さん、貴方は歌うことについて、間違った解釈をしています」
振り向き様の幸宏の足は止まった。
「幸宏さん、以前私に『歌を歌う者はそれなりの歌唱力が必要だ』と教えてくれましたよね? 確かに、それは一部正論だと思います。ですが『音痴は歌う才能は皆無であり、クズだ。上手いヤツだけが良い歌を届けられる...Fragile angel 15
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「うちは孤児院でも、保護施設でもない。まして音痴の異世界から来たワケの分からない女なんて尚更御免被る」
「やっぱり私、幸宏さんと一緒に住みたいです。保険証や戸籍謄本もこちら側のコネであらかじめ作ってますし……」
幸宏は突然ミクをつまみ上げた。
「出ていけ!」
玄関から冷たい風が吹く外へ放り投げ、...Fragile angel 14
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それはある夜。今日はライブの帰ってすぐの玄関にて。
「お帰りなさい、幸宏さん」
新婚の新妻のように彼を迎えるミク。可愛らしい青緑のフリルをあしらったエプロンを纏い、カレールーのこびりついたお玉を持ち、満面の笑みを浮かべている。
「ただいま」
それだけ言って、幸宏は靴を脱ぎ、ミクを避けてリビング...Fragile angel 13
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「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございます!」
ミクは自らが負う彼への詫びと感謝の気持ちを込めて、精一杯頭を下げた。
是認した幸宏は、とんでもない女を自ら掴んでしまったと心から悔やんだ。
〇 〇 〇
だがしかし、ミクは一向に幸宏の家から出ようとはしなかった。彼女曰く、「無銭兼音痴はどこも雇っ...Fragile angel 12
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ミクは多量の生唾を一気に飲み込み、大きく息を吸い込んだ。
「やぁるひぃ~ぱぱとおぅ~うたりでえぇ~っ、語りあったさあああ~」
幸宏は彼女の歌声を聴いた途端、椅子から転げ落ちた。彼女の歌声は、歌いだしの音は外れ、ブレスは間違える、音程はガタガタという負の連鎖反応である。
「なにが歌う種族だ、なにが...Fragile angel 11
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「そんなに冷や汗をかいているが、そんなに緊張しているのかい」
歌うことが日常茶飯事のようなイメージを持っていた幸宏であったが、彼女の様子を見るに自分の持つイメージと実際には相違があるものだと再認識した。
ミクの手足が痙攣を起こしているかのように震え上がっていて、今にも倒れてしまいそうな勢いである...Fragile angel 10
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何故彼女があの場所で倒れていたのか。その理由は「こちらの世界に向かう際に、転送先を間違えてしまった」という。空中に転送先を誤って選択してしまい、そのまま落下、気絶に至ったそうだ。
(歌う種族、ねえ)
幸宏にとっては奇妙奇天烈な彼女の話を、頷きながら半信半疑で耳を傾けていた。すると、ちょうどミクの...Fragile angel 9
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「お饂飩、ごちそうさまでした。私は初音ミクと申します」
「俺は幸宏。乃木幸宏」
「倒れて私をこちらまで運んで下さり、さらにはお食事を頂いてしまいました。このお命を救って下さり、深く感謝致します」
恭しく礼するミクに対し、幸宏は「そこまで頭を下げられることはしていないさ」と照れ隠しを言う...Fragile angel 8
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「お、やっと起きたか」
木目調の扉が開くと、幸宏は盆に二人分の食事を乗せて現れた。食事の内容はきつね饂飩であった。
「貴方が、私をここまで運んできてくれたのですか?」
彼女の問い掛けに、幸宏は声を発することなく、ただ頷くのみ。
「……ありがとう、ございます」
「礼なんてどうでもいい。腹空いてるだ...Fragile angel 7
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幸宏は更に慎重に、辺りを見渡す。すると木箱とビール箱が積まれている所に、ぐったりと座り込んでいる人影を見つけた。
「な、なんだ一体?」
彼は街灯に照らされる人影に目を凝らす。見れば緑髪の乙女ではないか。負傷した兵士のようにぐったりとしていて、今にも虫の息となりかけている。
「こ、これは大変だ」
...Fragile angel 6
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幸宏の住む河原町は、新築の分譲マンションと昔ながらの日本家屋の林立する町である。幸宏はその中の2LDKの月六万のマンションに住んでいる。早く帰って作曲の続きをせねばと、早歩きで家路を急ぐ。外はやけに寒い。自然と歩く速さがせかせかしていく。
(嗚呼、俺の心を動かしてくれる歌姫は現れないも...Fragile angel 5
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(歌、なのか?)
幸宏のバンドに、ボーカル担当の河瀬由佳里という女性がいる。幸宏や石神と同じ一回生である。彼女の歌声はパワーと声量に定評があるのだ。実は彼がバンドに入った理由は、彼女の歌唱力が少なからず絡んでいた。
彼女の歌唱力を見込んでバンドに入ったのだ。ベースの富竹、リードギターの板橋、そし...Fragile angel 4
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〇 〇 〇
今年の仙台の冬は寒い。もう十二月に入ったばかりであるのに、風のせいで顔が強張る。幸宏は仙台駅西口から連絡通路を通り、東口へと抜けた。ロフトの黄色い壁が訪れた者にインパクトを与える。
幸宏はペテストリアンデッキを、イービーンズ脇の階段から降りて地下鉄入口へと向かう。そして南方の富沢方面...Fragile angel 3
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しかし、彼の胸襟にはどこか満たされぬ思いがあった。キャンパスライフは充実しているし、友人も普通にいる。
趣味がピアノの他にギターも弾いているためにバンドサークルから勧誘され、ギターとシンセサイザ、キーボードを担当している。ちなみにバンド名は真意という意味の『AEMEATH』である。
それなのに...Fragile angel 2
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第一話 「音痴時々相棒」
シンセサイザのベース低音がBPM170を刻む。やがてシンセベルが辺りに小花を咲かせていき、ストリングスの加勢により一気に小花達は花びらを空へ舞わせてイントロの始まりだ。
やがて旋律を描き出すと、いよいよ主旋律だ。我こそはと、主旋律が堂々とメロディーを刻み込み、それはサビ...Fragile angel 1
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