間奏に差し掛かった。ミクは片手で頭を抱える幸宏のもとへ歩み寄った。
「幸宏さん、私は腐っても、歌う種族、『ボーカロイド』です。ボーカロイドは、自分の歌声に自身の感情を乗せて歌うことができるのです。嬉しい気持ちを乗せれば聞き手は嬉しい気持ちを、暗い気持ちを乗せれば聞き手も暗い気持ちになります。私はボーカロイドの中では、珍しい音痴ですが、ボーカロイドの持つこの『能力』はしっかりと宿っていたのです」
(そ、そんな、お前には、お前には……こんなに素敵な力があったなんて!)
由佳里には無くてミクにあったもの。それは人々に感動を齎す女神のような歌声。今は宝石の原石のようではあるものの、今からしっかりと彼女を磨きあければ、いつかはきらびやかな宝石へと変貌するだろう。
今まで彼女の力量をもっと調べなかった自分が恨めしいと、幸宏は後悔した。これこそつまり、道端に落ちているダイヤモンドを知らぬ振りをしているようである。
(俺に歌声だけじゃ良い曲が成り立たないと、その不器用な歌声で伝えてくれているのか、ミク)
幸宏は彼女があの条件を飲んだ理由が分かった。先刻の彼女の言葉が本当であると証明させるものだと。そして、自分の中にある音楽へのこだわりの中に間違いがあることも。
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