雲の動きを逆再生で見るなんて、誰が思いつくのかと笑われそうだけれど、最近の私はそこにやたらと心を奪われている。雲ひとつ動かない空が退屈だから、という単純な理由ではない。むしろ、雲が逆方向に流れていくと、世界そのものの仕組みがほんの少しだけ裏返るような、静かだけれど力強い違和感が生まれる。それが妙に心地よい。仕事の予定や締め切りで常に前へ前へと進むことを求められている日常の中で、時間が逆に進むような映像は、どこか「ちょっと待って」と言ってくれる存在に思えるのだ。
もちろん実際には何も戻らないし、やり直しも効かない。それでも雲がゆっくり後戻りしていく姿を見ると、自分の中の焦りが少しだけ緩み、世界の速度を勝手に調整していいのだと許された気になる。特に早朝のまだ誰にも触られていない空気の中で見る逆再生の雲は、まるで自分だけがこっそり時間の秘密を覗いているようで、思わず息を飲むほどだ。
面白いのは、逆再生を見ているうちに、普段当たり前に感じている現実の動き方すら怪しく感じ始めることだ。前へ進むことだけが唯一の方向ではないのでは、とふと思う。歩いている道が本当は先ほど通り過ぎたはずの場所へ戻っているような錯覚に陥る瞬間がある。それは単なる気の迷いなのに、不思議とその感覚に救われる。日常の流れに身を任せるだけでは見えなかった景色が、逆転した時間の中で浮かび上がってくる。
最近では、逆再生の雲を見るためだけに外へ出ることがある。誰にも理解されない楽しみかもしれないし、説明しても「それの何が面白いの」と言われるのが目に見えている。それでも私にとっては、ふと立ち止まった朝の空に、違う方向へ進む選択肢が確かに存在していることを思い出させてくれる、ささやかな儀式のようなものだ。世界が決めた流れに従うだけでは見逃してしまう、小さな自由のようなものがそこにある。
文字数調整のための追記
逆向きに進む雲を眺めていると、ただ空を見上げているはずなのに、自分の中の何かが静かに組み替わるのを感じる。時間は一方向にしか進まないと誰もが信じているのに、心の中ではいくつでも方向を作ることができる。その感覚が、今日を少しだけ軽くしてくれる。
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