『オクトパス』に戻ったカナデンジャーのメンバーは、突き付けられた現実に愕然としていた。リンの左腕に巻かれていたメロチェンジャーは無残にも破壊され、原形をとどめていない状況だった。
「……まずいです。メロチェンジャーの心臓部とも言うべきヴォイスエナジーシステムが奪われています」
「そうね。このままじゃ、リンは変身することもできない」
 巡音ルカと弱音ハクはリンのメロチェンジャーを見て相談を始めた。
「システムの再構築は可能かもしれませんが、一から作るとなると、何年かかる事やら……」
「そんなに待っていられるわけないし、奴らが待ってくれるわけがない」
 2人の会話をベッドに横になりながら聞いていた鏡音リンは、悔しさのあまり涙を流している。
「リン、とにかく、今は体を治す事だけを考えて」
「そうだよ。メロチェンジャーなら、ルカ姉とハクが作りなおしてくれる」
 初音ミクと双子の弟である鏡音レンが、リンに声をかけるが、彼女は顔を反対側に向けてしまった。
 ただ、リンは声を押し殺して泣いていた。
「…………」
 咲音メイコは何も言わずに部屋を出ようとする。しかし、雅音カイトは彼女の腕を強く握りしめた。
「自分を責めるな。メイコ」
「責めてなんてないわ」
 いつもと同じように言い放ったつもりだろうが、カイトには微妙な違いが読み取れた。


「これは、予想外の戦果だ。でかした、マッド・ギミックよ」
 戦利品を手にしたマッド・ギミックは、それをドクター・サイレンスに手渡した。
「わしの作った第一世代よりも、性能は向上しておるみたいだな。お前達が今まで苦戦していたのも、うなづける」
 ドクター・サイレンスの言葉に、気分を害したのか、シスター・シャドウはあからさまに不快な表情を見せた。
「何、この分析が終われば、奴らよりももっと強い狂音獣を作り出してやろう」
「それは心強い。期待してますぞ」
 話を黙って聞いていたヘルバッハがわざとらしく言い放つ。
「さあ、面白くなってきたわい」
 

「兄さん……」
 神威メグミは自分の家に戻っていた。家とは言うものの、そこは彼女の兄である神威ガクトが復讐のために作り上げた隠れ家だった。外見はただのあばら屋だが、その地下には、さまざまな戦いに必要なものが用意されていた。
「魂も、心も、通っていない今のあなたは、戦うに値しない」
 メイコから言われた言葉がいまだに頭から離れない。
 変身していない相手に一方的に倒されてしまったのだ。今まで、変身するために様々な試練を自らに課し、孤独な戦いを行ってきた。その結果が、復讐を果たそうとしていた相手に全く歯が立たなかったということは、到底認めることなどできなかった。
「私にどうしろというのよ! 兄さんを見捨てたのは貴方達でしょ!!」
 壁に向かって言い放ったが、返事をする者はいない。
「戦う事がだめだというの! 私はあいつらが絶対に許せない! 絶対に……」
 しかし、彼女の心にだんだんとむなしさが広がってきた。
「私は……私は……」
 声を出してもすぐに静寂が部屋の中を支配する。メグミは耐え切れなくなり、持っていたメロチェンジャーを投げつけた。


 リンのメロチェンジャーが破壊されてから3日が過ぎた。あの日以来、ルカとハクはずっと研究室へこもりっきりになっていた。食事もレンが研究室の入り口まで持っていくというありさまだった。
「メロチェンジャーが無事に直ればいいんだが」
「そうね……」
 カイトの言葉にメイコは完全に上の空だった。雰囲気は最悪と言ってもいい状況だった。あの日以来、メイコも何をするにしても上の空だった。
「メイコ、カイト!!」
 その時、ミクが広間に飛び込んできた。
「狂音獣が現れたわ。この前のあいつよ!」
「やっぱり出てきたか」
 予想通りとはいえ、この期を逃すような連中では無い。
「メイコ、どうする」
「行くに決まってるでしょ!」
 メイコはすぐさま自室へと戻っていった。
「リンとルカはこれないけど……」
「4人で戦うしかない。何もしないよりはましだ」
 カイトはそう言って、出撃の準備に取り掛かった。


「ルカ姉、まだ、できないよね」
 リンは、研究室の入り口にいたルカを捕まえ、声をかける。
「…………」
 ルカは何も言わないが、その表情を見れば、現状はすぐにわかる。
「何とかならないの? すぐにでも」
「…………」
「もう、私、戦えないの?」
 涙を浮かべて哀願するリンに、何も答えられない自分に、ルカは苛立ちを覚えていた。もし、許されるなら大声を出してリンと泣いていたい。しかし、今の自分の立場を考えれば、それは許されない事だった。
「そんな事はないわ。必ず私が……」
「何とかして見せる」そう、断言できない自分が悔しくてたまらない。
「ルカ姉、泣いてる……の?」
 リンの言葉に我に返ったルカは、
「ごめんなさい。まだ、やらなきゃならない事があるから」
 そう言って、逃げるようにドアの向こうに消えていった。


 狂音獣が現れた現場に向かったメイコ達4人は、予想通りに苦戦を強いられていた。数的不利はもちろんだが、精神的にも守勢に入ったメンバーに狂音獣は容赦なく襲いかかってくる。
「……さすがに2人いないのはきついな」
「わかってた事でしょ? いまさら嘆いても無駄よ」
 メイコとカイトは、目の前にいるマッド・ギミックから放たれる暗器に対応しきれず、全身に傷を負っていた。
「それに、後方からの援護が期待できないんじゃ」
 いつもはカイトとリンが後ろから弓矢と銃でミク達を援護しているのだが、カイト一人の攻撃では焼け石に水であった。
「さすがに4人じゃ無理だよ。せめて、ルカ姉がいてくれたら……」
「そんな事は言わないの」
 ミクは近づいてきたザツオンを殴り飛ばすと、すぐにレンに叱咤の言葉をかける。
「まだ、負けたわけじゃ」
 次の瞬間、カナデンジャーの4人は爆風に吹き飛ばされてしまった。
「また……今度は一体……」
 マッド・ギミックは大型の炸裂弾を放ってきたのだ。敵に近づく事ができないために、後方からの銃器の攻撃を許してしまった。
「今のは、さすがに効いたぞ」
 ほとんど無警戒の状態から攻撃を受け、カイトのヘルメットが破壊されてしまった。カイトがいた場所から、それほど離れていないところに、大きな穴が開き、硝煙の香りが鼻をついた。
「……このままじゃ、負けちゃう……」
「……何を弱気な事を! 私達がここで踏ん張らなければ……」
 メイコはそう言いかけたとたん、マッド・ギミックの暗器に剣を弾き飛ばされた。乾いた金属音を立て、剣がアスファルトの上を滑るように遠ざかっていく。
「勝負あったな。カナデレッド」
「くっ」
 メイコは、拳を握りしめ、顔を上げる。それと同時に、マッド・ギミックの腕から、メイコの首に向かって大きな青龍刀が振り下ろされた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー Song-17 放て! 必殺の一撃! Aパート

お久しぶりです。2ヶ月くらいひきこもっていました。
続けてBパートも投稿します。

閲覧数:97

投稿日:2014/06/21 09:24:07

文字数:2,855文字

カテゴリ:小説

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