ここ数日行き辛かった鈴々の店に久し振りに顔を出すと、入口には白い紙が貼ってあった。
『都合により臨時休業致します』
何だ?店長さんの体調でも悪いのか?それとも何か別の事情でも…。
「あら…クロア君。」
「っ!おばさん…ねぇ、これどうしたの?臨時休業って…。」
「鈴々が…鈴々がおかしな奴等に連れてかれたまま、戻って来ないのよ…。警察にも
連絡したけど手掛かりがちっとも無くて…ウチの人も寝込んじゃってね…。」
「…鈴々が…?!」
頭を思い切り殴られた様な衝撃だった。連れてかれたって…誘拐?…何で?…どうして鈴々が?おばさんが何か言っていたけれど全く頭に入らなかった。呆然としながら店を出ると、そのまま当ても無くフラフラと歩いていた。
「鈴々…。」
鈴々の家は料理店をやってはいるが、個人経営だし超お金持ちって訳じゃない。金が目的ならもっと別の家を狙うだろう。だとしたら怨恨?でも鈴々は勿論、おじさんもおばさんも恨みを買う様な人じゃない。なら…鈴々が目的…?頭の中に悪い事ばかりが浮かんで吐き気がして来た。無事なんだろうか…一体何処に…誰に…!
『クロア!また変な食べ方して!』
『残さない!全部食べなさい!』
『ねぇねぇ、クロア、私の作った料理、いつかお店に出せるかな?ほらほら、この
桃饅頭なんか自信作で…。』
「鈴々…!」
叫びそうになった。どうしたら良いかも判らない。警察に言った所で不安が消える訳じゃない。鈴々が今直ぐに無事で帰って来る訳じゃない。一体どうしたら…!!
「危ない!」
「え…?」
薄暗くなった周りと対照的に眩しいライトが視界を覆った。情けないけどびっくりしてそのまま脚が動かなかった。
「…アクセス…!」
遠くから微かに聞こえた声と、ガラスが割れる様な音、それだけが頭に残った。薄れる意識の中で、物凄い音と、人の悲鳴とが喧しかった。ハッキリと覚えていたのは。俺の名前を呼ぶ声だった。
「鈴々…?」
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