「おっちゃん、何時もの頂戴っ!」
「おうよっ!」
ユーリは街外れにある食堂に来ていた。
小さいけれど客足の絶えないこの店のカウンターの隅がユーリの指定席だ。
「ほら、よーく味わって食えよ!」
「いっただっきまーす!…くぅ~っ、相変わらずうっめーっ!!」
美味しそうな料理は目の前に出されたと同時に次々と胃袋の中に消えていく。
あっさりとした根野菜とベーコンのスープに焼きたてのパン、そして一番人気のチキンのハーブ焼きはユーリがこの店に来た時に必ず頼むメニューで、席に着くと同時に出てくる位には店のオーナーとも顔見知りだ。
「最近顔見せなかったじゃねーか。忙しかったのか?」
「……忙しかったらもっとここに顔出してるだろ、普通。」
「はっはっはっ!そりゃあ間違いないなっ!」
久しぶりに来たというのにオーナーの言葉は容赦がない。
ユーリの苦虫を噛み潰したような表情を見て、オーナーは茶化すように笑いながら水を差し出しおもむろに口を開いた。
「……そんなお前さんに客だぞ。」
不意に目の前の恰幅のいい男の声色が変わり、ユーリから目線が外れる。その視線は入り口近くにいる一人の男に注がれていた。
「あいつか?ジャン。」
「ああ、今日の朝一で飛び込みだ。とびっきりの腕利きをご所望らしい。」
「へぇ……」
ユーリは男から目を逸らさないまま不敵な笑みを浮かべる。
単なる腹ごしらえの為に寄ったつもりだったのだが、念願の仕事が舞い込んできたようだ。
「こりゃ来て正解だったかな……」
そう呟くとユーリは皿に残っていた一欠けらの肉を口に放り込み、入り口に陣取っている男の元へと向かった。
「よう、仕事を頼みたい奴ってアンタか?」
「ええ。ではあなたが?」
男が座っている席にたどり着き声をかけると、すぐさま顔があがり目線が合う。
眼鏡の奥の鋭い眼差しがまるで品定めするかのようだ。
その視線を受けて立つとでもいうように仁王立ちしながら見下ろし、ユーリは口を開く。
「ああ。アンタの希望は叶えてやれると思うぜ?」
「…………」
男は言葉を発しない。ただ見続けているだけ。
けれどユーリは何も言わず男の好きにさせていた。
気楽にフラリと立ち寄れるこの店にはそぐわない風貌を男はしている。ツーピースのスーツを着込み、何を注文するでもなくただ徒に席を温めている姿は流石に浮いていた。
そんな男がどうしてこんな大衆食堂に分類されるであろう店を訪れたのか。
「では店を通じて依頼した仕事を請けて頂けるのですね?」
答えは男の言葉が示していた。
この店には食堂とは別の顔があるのだ。
――― 仕事の斡旋 ―――
店主は愛称として専らオーナーと呼ばれていて、おおらかな彼を名前で呼ぶ人間は殆どいない。
彼を名前で呼ぶ客、それは仕事の斡旋屋としての顔を知る者のみ。
とは言っても仕事を探す人間が口にしているだけで、頻繁に足を運ぶ事のない依頼者が名を呼ぶ事は殆どないのだが。
「ああ。こんなとこに依頼するってこたぁまともな事じゃねーんだろ?」
ユーリは漸く本題を切り出した。
ジャンを通してくる依頼でまともなものは一つもない。常に危険と隣り合わせ、それがこの店のもう一つの顔が持つ世界。
この世界で生き抜いていく為には方法など選んでいられないのだ。必要なら犯罪スレスレの方法だって使うし、ハッタリだってかます。
「どうする?俺ならその依頼、完璧にこなしてやるぜ?」
ユーリはたたみ掛けるように男に告げた。
手に入りそうな仕事をみすみす手放す気はない。
「さぁ、どうする?俺じゃない、他の三流に依頼するか?」
駄目押しとも言える言葉を叩き付けた時、男は無造作に立ち上がった。
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