「―――よって、クロイツェル王国王女、リンリィ・フィオナ・カシュー・ミラーシャサウン=ド=クロイツェミミンを《大獄》送りとする」
重々しい男の声が、判決を告げる。怒号・野次・歓喜も叫びなど様々な音が飛び交う中、判決を告げられた彼女は不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
魔法が存在する世界・ポーシュリカ。その世界には、死刑よりも重い罰として《大獄》行きというものがある。
重い罪の中でも7つの大罪、傲慢・嫉妬・色欲・暴食・強欲・怠惰・憤怒。それらに当てはまる罪を犯した者を、《大罪人》として《大獄》と呼ばれる異世界に連行するのだ。
《大獄》から出られる手段は唯一つ。
自分と同じ《大罪》を犯した者を8人、他の6つの《大罪》を犯した者を7人。計50人の《大罪人》を倒す事。
今までに送り込まれた《大罪人》は星の数ほどいるが、今だかつてそれを成し得た者はいない。
ポーシュリカの中にあるラトリア大陸中央に位置するクロイツェル王国。その王女であるリンリィ・フィオナ・カシュー・ミラーシャサウン=ド=クロイツェミミンは両親を暗殺し、国民に重税を掛け、戦争を起こし、暴虐の限りを尽くした。そのために国民が革命を起こし、王女リンリィを捕らえたのが昨日の事。
「確実に死んだのを確認したい」という者と「死刑すら生ぬるい」という者との議論の末、結局は《大獄》送りが決定したのだ。
冬の光を跳ね返す、淡い金紗の髪。波ひとつ無い湖面に似た、蒼い瞳。黒地に金糸銀糸で様々な模様が刺繍されたドレス。
これから生きて帰った者のいない地へと赴くというのに、その表情は何処までも普段通りだった。
「王女、《大獄》へ行く前に、言うことはあるか?」
しばらく目を閉じ、彼女は言った。
「私は必ず帰ってくるわ。その時を楽しみにしてなさい」
艶やかに笑い、ドレスの裾を翻して一礼する。
「手を出せ。《大獄印》を刻み付けてやる」
男に笑い掛けた王女は、左手の手袋を外してその白い手を出す。
そしてその甲に、男が焼きごてで焼印を入れた。苦痛からか、王女は眉をひそめる。自分達を苦しめてきた王女のその表情に、群集がどよめきを上げた。
シュウシュウと白い煙が上がる。その左手に刻まれた《大罪印》は、半分しか刻まれていなかった。
「どういう事だ?」
半分だけの《大罪印》。それは《大獄》と《大罪人》のシステムができて以来、はじめての事だった。
「 ! !」
ざわめく群集の中から、ソプラノ・トーンの声が響く。
そこから現れたのは、王女によく似た少女だった。
春の日差しを思わせる金紗の髪。雲ひとつ無い青空に似た、蒼い瞳。白いフード付きマントから覗く顔は、艶やかに笑う王女のそれとよく似ていた。
「レン!」
少女は王女に向けて、そう叫んだ。王女の顔に浮かぶ、動揺の色。
唇だけを動かし、王女は「リン」と言った。
男に歩み寄る少女は、無言で右手を突き出す。
そこには、もう半分の《大罪印》があった。
【オリジナル小説】 ポーシュリカの罪人・1 ~半分だけの印~
初のオリジナル小説です!
短くてすみませんw
悪ノ風味なのは・・・すいません、仕様という事で一つお願いします。
大罪シリーズの一つ、「傲慢」な悪ノ娘だってやり直せるはず!
・・・と思ってやってみました。すいません。
テーマは一応《贖罪》です。
この先どうなるか分かりませんが、楽しんでくれると嬉しいです。
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りりきち
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