膝の上で本を読む凛歌の髪を梳く。
さらさらとした手触りは、いくら触っても飽きなかった。

「ねぇ、凛歌。」

「・・・なぁに?」

本を閉じ、僕を仰ぎ見る。
その夜色の眼に、ずっと聞きたかった質問をぶつけてみる事にした。

「どうして、僕を拾ったの?」

凛歌は、人間嫌いだと聞いた。
そして、出逢ったあの日、凛歌は途中まで僕を人間だと思っていたはずだった。
どうして?
ずっと、考えていた。
凛歌は、少し考え込んだ。

「ひとつは、お前の眼の中に、かつて私が抱いていたモノを見たからだ。・・・もうひとつは。」

ぽつり、重い口を開く。

「黒猫・・・昔、内緒で世話していた黒猫が、帯人の倒れていた樹の下に埋まっていた。・・・・・・帰ってきたと、一瞬本気で思った。」

ぽつり、ぽつり。
あまり触れたくないことなのか言葉を選びながら、それでも、真摯に答えてくれる。

「中学に上がる前、あそこの公園で・・・内緒で世話してた。黒い、小さな猫。親からはぐれたのか、人間に捨てられたのか・・・。他のガキには懐かないで逃げ回ってたくせに、私が公園に行くとすぐによってきたんだ。毎日、日が暮れるまで、一緒に遊んだ。母さんとお祖母ちゃんがアレルギーだったから飼うことは出来なかったけど・・・唯一の友達だった。親友、だった。」

その眼は哀しく、それでも、どこか昔を懐かしんでいるようだった。

「『異端者』に、猫が懐いてるのが、他のガキ共には面白くなかったんだろうな。学校に言いつけやがった。猫は、保健所送りになりそうになって・・・護りたかった、でも、護れなかった。大人と争ってる最中に、猫は死んだよ。私の腕の中で、冷たくなっていったんだ。」

淡々と言葉を紡ぐのが、かえって痛々しかった。

「猫が死んだのを見ると、保健所の大人共は亡骸を取り上げようとはしなかった。私は、猫をあそこの桜の下に埋めた。それからは・・・正直、ちょっとまだ、話せない。」

ふ、と息を吐く凛歌。
その髪の毛を、軽く引っ張る。

「凛歌。」

「・・・何だ?」

これをやるのは、ちょっと勇気とか度胸とか色々必要で、プライドとか意地とかちょっと捨て去らなきゃならなかったけど・・・。

「にゃぁ。」

ぺろっと頬を舐めてみた。
凛歌はちょっと驚いた顔をして・・・腕を伸ばして僕の喉のあたりを擽るように撫でた。

「・・・ずいぶん、デカイ猫がいたもんだ。」

もう、哀しい顔はしていなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

欠陥品の手で触れ合って 日常編 『Gatto Nero』

欠陥品の手で触れ合って・日常編『Gatto Nero(ガット・ネーロ)』をお送りいたしました。
副題は、『黒猫』です。
二部への伏線のみの話なので、短いです。
あと、伏線1話とただの日常編2~3話やったあと、第二部にはいろうかと思います。

それでは、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
次回も、お付き合いいただけると幸いです。

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投稿日:2009/05/30 01:21:58

文字数:1,028文字

カテゴリ:小説

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