夜になっても、ベッドに入って横になっても眠れなかった。頭にぽっかり空洞が出来た様に気持ちが悪い、手が、身体が、ひどく寒く感じた。部屋をこっそりと抜け出て巡回のスタッフに見付からない様エレベーターに向かった。

「何をしている。」
「きゃっ?!」
「…優雨スズミ…?」
「あ…詩羽…さん…。」

声に飛び上がる程びっくりした。詩羽さんはいつものスーツでは無く白衣に手袋をしていた。髪も下ろしていていつもとは雰囲気が違う。何だろう?何か引っ掛かる。

「あのっ…!」
「何だ?」
「詩羽さんは知ってるんですよね?私の事…今朝木徒ちゃんが言おうとしてた事。」
「それを聞いてどうする?」
「…判りません…判らないけど…私はそれを知らなきゃならないと思うんです。」
「…君は…君は自分がどれだけ守られているか考えた事があるか?」
「え?」
「君を傷付ける物から、君を苦しませる物から、誰かが命懸けで君の事を守って
 いると考えた事は?君の後ろにどれだけの影が落ちているのか、それを知る
 覚悟が本当にある?」

覚悟…。そう言われて身が竦んだ。怖いと言えば嘘だった。だけどこの痛みが何なのか、私が目を逸らそうとしてる物が何なのか、知りたかった。知らなければならない、そう思った。

「はい。」
「…なら…着いておいで。」

そう言うと詩羽さんはエレベーターを背に階段を降りて行った。どの位降りただろうか、階数表示が無く何階かもよく判らなかった。少し開けた場所に出ると、スタッフらしき人達がバタバタと動いている。

「何かあったのか?」
「詩羽様…先程ショック状態になり、一時呼吸が…今は落ち着いています。」
「…ハァ…。」
「無事取り込めたか?羽鉦。」
「ああ…何とか…っスズミ?!お前っ!どうして…!」
「もう隠し通せる段階じゃないだろう、彼女もそれなりに覚悟は出来てる。」
「だけど!」
「私が頼んだんです…羽鉦さん。」
「……こっちだ。」

手を引かれて、ドアを開けた瞬間、私は思わず息を呑んだ。

ライセンス

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BeastSyndrome -51.全てを知る覚悟-

その扉は余りにも重く

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投稿日:2010/06/17 12:17:51

文字数:849文字

カテゴリ:小説

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