C
昔むかしの水の底
今は遠い物語
金の刃と謳われた
小さなメダカのお話だ
A
とある底なし海の底
美し姫がありまして
銀の肌に珠の瞳(め)の
たいそう綺麗な姫君が
B
とある小池(おいけ)のメダカの子
噂のうわさを又聞きし
「一度あの手に触れたら」と
握って叫んだブロマイド
S
不撓不屈の意志の下
滝を登って空を駆け
竜の神さえ言い負かし
岩礁さえも貫いた
A
とある真珠の姫君は
たいそう綺麗で輝くが
心は冷たく渦巻いて
けして笑わぬひきこもり
A´
空の言葉に傷ついて
氷土に瞳を潤ませて
爪でなじってただ泣いて
珊瑚の宮から出て来ない
B
突如はじけた宮の壁
飛び込む小さな魚の子
いったい誰ぞと叫んだら
「名もないメダカにございます!」
S
嘆き悲しむ贅沢を
風雲のごとくぶち壊し
幽玄無為なる理を
ただのメダカが砕くとは!
A
とあるメダカの無礼者
真珠の姫の手を取って
「なんて醜い指先か!」
そのままヤスリで整える
B
真珠の姫君ただぽかん
輝く顔には目もくれず
メダカは不精と憤る
「なんと可笑しいことでしょう!」
S
あれほど澱んだ世界すら
不思議と可笑しく面白く
見目声音の表装も
要らぬ者には意味もない
C
昔むかしの水の底
今は遠い物語
金のヤスリと謳われた
小さなメダカのお話だ
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