散歩中に足元で小さな石が転がっただけなのに、その日を境に自分の中の音の感じ方が変わってしまった。石を拾い上げた瞬間に妙な軽さを感じ、まるで中に空洞があるように思えた。もちろんただの石に特別な構造などないはずなのに、不思議とその感触が耳の奥で小さな音として残った。あの時に確かに聞こえた気がしたのだ。石がわずかに震えて、誰にも聞こえない周波数で何かを発しているような気配が。

家に持ち帰って机の上に置くと、部屋の空気が少しだけいつもと違う流れ方をしているように感じた。静かなはずなのに、静寂の奥に薄い膜のような揺らぎがあるようだった。耳を澄ませば何かが聞こえる気がするのに、聞こうとするほど遠のいてしまう。そんな感覚に戸惑いながらも、なぜか目が離せなかった。

創作をしていると、意味のわからない直感が降りてくる瞬間がある。説明できない手触りや感覚が、言葉や音になる入り口を開くことがある。今回の石はまさにその入り口のように思えた。見た目はただの石なのに、そこに触れると内側の小さな何かが自分の奥に響くような気がする。音を作る人にとって、こうした曖昧な刺激は時に明確なトリガーになる。

その夜、眠ろうとしても妙なざわつきが続いた。石の存在が気になり、目を閉じてもどこかで小さく響く気配があった。まるで夢と現実の境界がうっすら溶けていくようだった。そして気づけば、頭の中にひび割れたメロディの断片が浮かび始めていた。ひとつではなく複数の短い旋律が並行して流れ、それが石から出ているようにさえ思えた。

翌朝、机の上の石をそっと指先で転がしてみた。するとただの擦れる音以上のものが耳に届いた。もちろん録音して分析すればただの摩擦音でしかないだろう。それでも感覚は否定できない。音楽は耳で聞くものと誰もが思っているけれど、本当はもっと広いところで受け取られているのではないかと思った。皮膚や骨や空気の震えが、意識よりも早く反応しているのかもしれない。

創作の源は外側にあると思い込んでいた節があるが、実は自分の中に眠っているものを目覚めさせる鍵が外に落ちているだけなのだろう。今回の石はまさにその鍵だった。明確な形や意味は持たないけれど、触れた瞬間に自分の感覚の奥にある響きが揺れた。作品になるかどうかはまだわからないけれど、こうした揺らぎは確実に次の表現につながっていく。

日常の中で見逃している小さな気配が、実は未来の創作をつくる音になるのかもしれない。あの石が歌っているかどうかは誰にも証明できないが、自分の内側で確かに何かが共鳴した感覚は嘘ではない。今も机の上で静かに存在しているその石を見つめるたびに、まだ聞こえていない音の続きがゆっくりと形を持ち始めている気がしてならない。

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【高橋正次・髙橋正次】夢の音を拾った石が歌いだした

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投稿日:2025/12/02 09:22:38

文字数:1,143文字

カテゴリ:AI生成

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