数日後、流船を除く適合者が呼び集められた。事情を聞かされた皆はやっぱり素直に喜べず、警戒心も解けないみたいだった。私や頼流さんの方をチラチラと見ては話しあぐねているのがよく判る。

「芽結ちゃん…大丈夫なの?あの人…。」
「…ええ…。」

本当は判らなかった。嘘を吐いた。頼流さんみたいに今直ぐに引っ叩いてやりたい気持ちも、泣き叫んで責めたい気持ちもいっぱいあった。だけどそれより流船に会いたくて堪らなかった。

「おい…顔真っ青だぞ?!」
「大丈夫です…少し…寝不足なだけで。」

もうずっと眠れなくて、皆に内緒で睡眠薬を処方して貰っていた。会いたい気持ちと、これからの事への不安で押し潰されそうで眠るのが恐くて仕方無かった。でももうすぐ流船に会える…。

「芽結。」
「はい…?」
「お前は残れ。」
「え…?」

一瞬固まってしまった。残れって…私は行けないって事…?流船を助けに行けない…?

「ど…して…?何でですか?!だって…だってやっと…!」
「自分が冷静でない事も判らない奴を行かせる訳には行かない。今回失敗すればやり直しは効かないし
 流船だけじゃなく俺達もどうなるか判らない。」
「そんな…!嫌…嫌です!お願い…お願いです幾徒さん!」
「今のお前は流船しか助けない!頼流も…二人の母親である禊音流美も…お前が仇だと思ってる
 碧砂も!その場にいる他の誰も死なせちゃ駄目なんだよ!…今のお前に…そんな判断が出来る
 とは思えない。」

辛そうな声に言葉が出なかった。溢れそうになる涙を必死で飲み込んで、ゆっくり頷くのがやっとだった。インカムを渡されたゼロさんと頼流さんは心配そうに私を見遣ってから、何も言わずに準備を始めていた。

「準備が出来たら言ってくれ、インカムが繋がらなくなった場合の対応は説明した通りだ。
 それと頼流、くれぐれも過去の自分と接触しない様に。」
「判ってる。」
「準備OK。」
「こっちも準備…。」
「待って下さい!」

少し上擦った声にみんなの手が止まった。首から下げていたペンダントを祈る様な思いで渡した。言わなきゃ…ちゃんと言わなきゃ…!泣いたってどうにもならないんだから!私に出来るのは二人をちゃんと過去へ送る事!信じて待ってるって伝えるしか無いんだから!…ちゃんと言わなきゃ!

「流船に…『待ってる』って…『未来で待ってる』からって…流…っ!…ふっ…!うぇぇええ…!」
「芽結…。」
「ごめ…なざ…!れも…流船…た…だずげ…会い…うぅっ…!うぐっ…!」
「ああ、もう、鼻水出て…汚いな、誰かティッシュ…。はい、ちーん。」

涙と鼻水とティッシュ塗れでぐちゃぐちゃの私の頭を大きな手がくしゃっと撫でた。

「こんなに想って貰えて幸せだな、流船は。」
「頼流さん…。」
「必ず助ける…信じて待ってろ。」

流船…流船…会いたいよ…凄く会いたい…私皆を信じるよ…信じて待ってる…待ってるから…!

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コトダマシ-84.信じて待ってる-

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投稿日:2011/01/29 01:23:56

文字数:1,221文字

カテゴリ:小説

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