「…翡翠さん…翡翠さんっ…!ひす…きゃあっ?!」

突然バサリとカーテンが翻った。驚いたのとカーテンを被ったのとで、思わず顔を伏せた。

「風…?」

顔を上げるか上げないかで目の前が暗くなった。え…?これ…カーテン?

「…どうして貴女は私を呼ぶんですか…!」
「翡翠さ…きゃっ?!」

後ろから強く抱き締められた…カーテンにくるまれたまま、まるで自分の手から私を守る様に。後ろを見遣ってもカーテンに遮られ表情は見えない。でもさっき迄の恐怖心や不安は溶ける様に消えていた。来てくれたの…?本当に来てくれたの?私の声に応えてくれたの?

「私は…私は貴女が考える程綺麗な人間ではありません。私は何も出来ない、貴女を守れる
 力も無い、貴女を笑顔にさせる事も、貴女に触れる事すら…!なのにどうして…!」
「ごめんなさい…!ごめんなさい!ごめん…なさい…。」

助けに来てくれた事が嬉しくて、私の声に応えてくれた事が嬉しくて、ただ会えた事だけでも嬉しくて、会えた、声が聴けた、ただそれだけで震える程嬉しかった。

「私は…化け物なんですよ?」
「翡翠さんは翡翠さんです。」
「化け物で臆病で…壊してしまうのが恐ろしくて貴女に触れる事すら出来ないんですよ?」
「…壊れたりなんかしません…。わ、私結構頑丈なんですよ?」
「貴女が泣いても慰める事も出来ないんですよ?」
「それでも…私は…!」
「それでも私を信じてくれると言うなら、貴女からこの手を取って下さい。」

私を抱き締めていた腕がふっと解け、くるまれていたカーテンが窓辺に逃げる。薄い月明かりの中、漆黒の翼が浮かび上がって、ほんの一瞬、世界中の音が止んだ様な錯覚すら覚えた。

「貴女が壊れないと言うなら…こんな化け物でも良いと言うなら…!それでも私を…私を…!
 ――それでも俺を呼んでくれるなら一緒に来い!!リヌ!!」
「うん…っ!」

強く強くしがみ付いた。強く強く抱き締められた。息が詰まる程、胸が詰まる程、時が止まる程。その腕に、その翼に、その瞳に、私の全ては捉われた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -41.君の虜-

心を奪われる事を虜になると言うんですよ。

※次ページは少しだけ過去のお話になっています。

閲覧数:352

投稿日:2010/06/13 01:25:58

文字数:867文字

カテゴリ:小説

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  • 遊羅@右肩逝きかけ

    遊羅@右肩逝きかけ

    ご意見・ご感想

    これは……
    ひたん……よくがんがったよ…!!!←
    予想通り「壊すのが怖くて触れられない」パターンだった!wwww
    無駄にかっくいいなあのヘタレめ…w(おまw

    2010/06/13 10:43:19

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