書類やデータを前に溜息が続いていた。奪われた武器と、最近の文字化けの大量発生は時期が一致、そして各所で目撃される『黒い翼の男』写真や報告を見る限りその風貌は幎のそれと酷似。この男が現れた場所には必ず文字化けが複数発生している。
「…どう言う事だ…?」
「幾徒ー?幾徒…あ、居た。」
「どうした?」
「鳴音さんが『ゼロさんのお姉さんは保護しないのか』って聞いてたよ。」
「お姉さん?ああ…そう言えば双子だったっけ…判った、手配すると伝えてくれ。」
「うん…。」
画面を見たまま流船がじっと立っていた。何度か首をかしげつつ一枚の写真を見ている。
「何か気になる事でも?」
「…同じ人が映ってるなーと思って。」
「ああ、この黒い奴が各所で…。」
「そうじゃ無くて、ほら、この女の子。」
「女の子?」
流船が指差した場所にはかろうじて姿形が判別出来る程度の人物が映っていた。
「こっちの写真にも、それからここにも、後は…。」
「待て待て、勝手に写真開くな!」
数枚の写真を見ると、日付が違う物なのに確かに帽子を被った女の子が映っている。人が逃げ惑っているであろう中、一人だけ視線が黒い男に向けられていた。
「気付かなかったな…。」
「それは絵襾が…。」
「え?」
「…何でもない…。」
言葉を飲み込んだ様に笑うと流船は研究室を出て行ってしまった。何故流船の口から『絵襾』と言う名前が出たんだろう?あれは只のフリーソフトのキャラクターで、当然幎の様な精密プログラムも組んではいない。なのに流船はその幽霊を見たと言っている…少し調べた方が良いかも知れないが今はそれ所じゃ…。
「……。」
何か聞こえた気がして辺りを見回すが人影は無かった。疲れているんだろうか?
「……て…。」
「…誰か居るのか…?」
「…ロア…。」
僅かな声を頼りに通路に出た瞬間、足首を掴まれうっかり悲鳴を上げそうになった。
「びっ…くりしたぁ…って、おい?!大丈夫か?!おい?!」
「…た…けて…。」
「誰か!誰か医療班!誰か来てくれ!」
「クロ…が…聖…螺…ちゃ…。」
「クロ…?聖螺?!」
虚ろな目をした女の子はそのまま糸が切れた様に気を失った。
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