まだ冬というには早いころなのに、町に雪が降ってきた。今年初めての雪だ。近くにいる子供たちが喜びの声を上げる。でも、この雪はすぐに溶けてしまうだろう。子供たちのほとんどがはしゃいで、みな嬉しそうにしているが、ひとり、暗い顔をしている子がいた。
「私、おうちに帰らなきゃ。」
その子は走っていってそのうち見えなくなった。
「私も、帰らなきゃ…。」
つい、そう考えてしまった。いけない、昔のことなのに…。
私は小さいころから病気をもっていた。冬になると、お医者さんや親に外で遊ぶなと、何度も何度も繰り返し言われたものだった。雪の中で遊ぶと私の体は耐えられないそうだ。
「私も雪の中で遊びたい。」
その思いは、永遠に叶わないままのはずだった。
その日は、雪は降らないだろうと天気予報は言っていたので、学校に行った。教室に入るとクラスメートの元気のいい声が聞こえる。そのときすでに、朝方晴れていた空に雲が広がってきていた。もしかしたら雪が降って帰れなくなるかもと、少し不安になった。
給食を食べ終えてお昼休みのチャイムがなったときだった。
「あ、雪が降ってきた!」
男の子たちが一目散に教室から出て行った。おそらく校庭に向かったのだろう。それに続いて女の子たちも教室を出て行った。教室には私と先生だけが残っていたが、先生は職員室に行くと言い残して教室を出て行った。カバンに入れてきた本を取り出して読み始める。今日はどんな話なのだろうかと期待して読んでいたが、外で遊べない寂しい思いが強くなってきた。
ドアを開ける音が教室に響いた。先生だろうか、ドアの方に目を向けると、自分の方に近づいてくる子がいた。
「ねぇ、君は外で遊ばないの?」
その子は私が雪の中遊べないことを知らないようだ。
「一緒に外に行こう!」
「えっ…、無理だよ。行けないよ。」
「なんで?」
「ダメって言われているから。」
「それ以外には?」
「ないけど…。」
「なら大丈夫だよ。行こうよ!」
そう言いながら私の手をしっかりとつかんで、ほとんど無理やり連れて行かれた。
雪の中で遊んでみたいという好奇心に負けて、私はとうとう雪の中に踏み込んでいった。はじめて雪の中で遊ぶのがすごく楽しかった。10分くらいたち、教室に私がいなかったので私を探していた先生が、雪の中で遊んでいる私を見つけると、すぐにやってきてやめさせられた。
雪の中遊んでいたけれども、心配されていた病気に、特に問題はなかった。その後、雪の中でも遊んでもいいと、時間制限つきでだが許可されて、最終的には時間制限すらなくなった。外に連れて行ってくれた子とたくさん遊ぶようになり、私にとって唯一の親友と呼べるほどまでに仲良くなった。だが、幸せな時間はそう長続きはしなかった。
私の病気が次の段階へ進行してしまったのだ。加えて、私には耐えきれないほどの衝撃が待っていた。私の唯一の親友の、あの子が死んだ。
それから先の記憶は曖昧だった。今は、私の病気は通常の生活を送れる程度には回復して、雪でも特別心配しなくてすむ。それでも死と直面するような苦しみにたびたび襲われる。生きるのが、つらい。
昔を思い出しながら雪の中を歩いていると、店を構えていた占い師に声をかけられた。
「悩み事とかあるかね。」
ないわけがない。明日生きている命なのかわからず毎日をすごくことはつらい。そうだんにのってくれるそうなので、しゃべり始めると、もう私はとまらなくなってしまった。過去のことまでしゃべってしまった。
「あなたは過去をやり直して、そのこと会わない方がいいと思う?」
「それはないよ。あの子と会ったのは私にとっての宝だもの。」
「その親友が生きている世界にいきたい?」
「……いきたい。」
ああ、私はあの子が必要なのよ。
「質問を変えよう。あなたは自分の病気をなかったことにしたい?」
「できることなら。」
「じゃああなたが病気でなかったら、果たしてその子に出会えたかな?」
「そりゃあ、会ってないはず…。」
……あ、病気じゃなかったら、あの子に出会えていなかったということに…。えっと、じゃあ病気はなかったことにできないじゃないか。でも…悩むけど、私は病気をなかったことにはできない。私の大切な思い出。そして今でもあの子は私の初恋の相手。あの子に出会えたことが、あの子に外に連れて行ってもらったことが、あの子と友達になったことが、あの子とたくさん遊んだことが、私のとっても大切な思い出なのだ。そうだ、病気の私だったから、あの子に出会えたのだよね。
「心の中の整理がついたかな?」
占い師の声が聞こえた。
「この現実を受け入れられるかい?」
「ええ、もちろん。」
今の私はちょっぴりカッコいいと思った。
私はそのまま雪の中に消えて行った。

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  • 非営利目的に限ります

とても短く、前後のつなぎもへたくそですが、読んでいただければ幸いです。
もしよろしければつかってください。なんでもかまいません。

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投稿日:2012/12/05 18:34:29

文字数:1,970文字

カテゴリ:小説

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