※JBF設定で別れたルカと彼







 男の人って本当に泣くんだ。頭の中で浮かんだのはそんな感想。ドラマの中の世界でなら何度も見たことがあるけど実際には見たことがなかったから不思議に感じた。一筋、涙が頬を伝っていく。彼の黒い瞳から(私が愛しいと感じた綺麗な瞳から)ゆっくりと。
 小さな小さな声、でもはっきりと名前を呼ばれる。どうしたのと聞けば、ゆっくりと彼の口から言葉が流れる。何年もずっと傍で聞いていて耳に馴染んだはずなのに酷く懐かしく感じる声。低くも高くもないその声が空気を震わせ鼓膜を震わせ、私に音を運ぶ。

 脳に音が届いた瞬間、私の思考はストップした。

 気付いたときには私は1人。部屋を見渡しても誰もいない。白い部屋の中でいつも目立っていた黒がいない。先ほどまで自分と彼と二人でソファーに座っていたのに。ふと、自分が凭れているのとは逆のひじ掛けの上で何かがキラリと光る。それは指輪。自分の薬指で同じようにキラリと光るものとペアの。

(ああ、そっか)

 私は全てを理解した。




 いつからだか分からない。減っていく会話、増えていく距離感、消えた笑顔に生まれた静かな空間。高校生のときからの友人には未だに付き合ってるのが凄いね羨ましいと言われたが、実際の中身はそんなもの。どちらかの部屋に遊びに行ってもソファーに座って一緒にテレビを見るだけ。
 それでも一緒にいたのは好きだったから。愛しくてたまらなかったから。そして、いつかあの頃のように戻れると思っていたから。照れ隠しに寒いからと理由をつけて繋いだ手。帰り道、何度となく先生やお巡りさんに注意されながらも止めなかった自転車の二人乗り。たくさんデートをした。二人で馬鹿みたいにいっぱい笑った(あの頃に)。


 ひじ掛けに乗っている指輪に手を伸ばす。遠い位置にあると思っていたそれは腕を伸ばせば簡単に届いた。その事実に気付いたとき私の頬に一筋涙が流れる。いつも遠い遠いと思っていた彼と私の距離。ソファーの端っこと端っこ。それだけの距離をとても遠いと感じていた(本当はとても近かったのに)。コロンと音を立てて指輪が床に落ちる。彼の指輪と、私の指輪。ああ、彼は高校生のときから賢かったから私なんかより早く気付いたのだ、修復不可能なこの恋に。
 隣を見る。温もりをなくし冷たくなった彼の定位置を。瞳を閉じれば、そこにこちらを向いて優しく笑う彼が見える。けれどそれは空想。ゆっくりと瞳を開けてもう一度そこを見れば誰もいない。当然だ、今この部屋にいるのは自分1人だけなのだから。


「さよなら」

さよなら、愛した人。


 私は泣いた。
 静かに静かにひとりぼっちで。

ライセンス

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Good-bye,beautiful days

あくまで個人的な解釈です。ずっとずっと大好きな曲。

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投稿日:2010/02/09 13:33:50

文字数:1,122文字

カテゴリ:小説

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