その日、私は夢を見た
だけどいつもの夢とは少し違っていた
ともあれ、今日の夢には誰もいない
おまけに家からも出られない
怖くなって、嫌気がさしたからベッドに横になった
暫く目を閉じて、また開いた時は元の世界だった
次の日、また同じような夢を見た
昨日感じた物が何なのか分かった
ここは夢だって分かる事に気づいた
インターホンが鳴った
扉を開けると見慣れない女の子がいた
その子は私を知っているようだった
女の子は「遊びに行こうよ」と私の手を取り外に連れ出した
初めて誰かと手を繋いだ
翌日、また夢を見た
知らない男の子が迷い込んできた
怯える私に男の子は女の子に促され、緊張気味に「はじめまして」と挨拶をしてきた
ちぐはぐな男の子の仕草に私は少し笑ってしまった
女の子も続いて笑った
男の子は軽く不機嫌になりながらも少しだけ柔らい表情を見せた
初めて安らげる居場所を見つけた
それ以来私達はいつも一緒だった
3人で小さな街を駆け回った
女の子が先頭を行き、私がそれの後を追い、その後ろで男の子は付かず離れずで付いてきた
それがいつもの日常になった
初めて幼馴染みができた
翌日、3人で電車に乗って別の街に行くことになった
辿り着いた街で円い眼をした白兎と出会った
兎さんは中々面白い人で、色んな話を聞いた
帰り際、兎さんは2人に内緒で私に何かをそっと手渡した
それはお祭りの際によく売られているような玩具の銃だった
兎さんは得意気に話した
「それを僕は「忘却の銃」と呼んでいる」
「それに撃たれた者は、無くしたい記憶のみを無くすという代物だ」
「もし君や君以外の誰かが辛い思いをしたり、死にたいと思った時はそれを使うといい」
「他の2人には秘密だよ」
それだけを言い残して兎さんは小さく手を振りながら姿を消した
初めて誰かと秘密を作った
翌日、いつもの様に街を闊歩していると一人の黒猫さんと出会った
黒猫さんは生まれながら盲目で
ずっと鼻と耳だけを頼りに生きてきたらしい
黒猫さんは言った
「大切な人に会いたいんだ」と
私達は黒猫さんを連れ回し、街中を探し回った
匂いを辿って辿り着いた場所は墓地だった
黒猫さんは1つの墓石の前に立つとこちらを向いて言った
「ありがとう。手間を掛けてしまったね。俺は暫くここに残るから暗くならない内に早くお帰り」
そしてお礼にと黒猫さんが首に巻いていたマフラーを貰った
促されるまま帰路につく途中、私は後ろを振り返った
そこには墓石にもたれ掛かり嗚咽混じりに涙を流している黒猫さんの姿があった
次の日、道路の脇に野良猫が冷たく固まっていた
辺りには血と肉の塊が飛び散っている
車に轢かれて頭が潰れた無惨な姿だった
私はただその現実を見下ろしていた
初めて死というものに触れた
ある日、自分が何処に居るのかわからなくなった
ここは夢なのか、はたまた現実なのか
もしここが現実だというのなら、あの2人はただの幻なのだろうか
もしここが夢だというのなら、両親も何もかも偽物なのだろうか
そう思うと途端に苦しくなった
胸が締め付けられる想いだった
辛くて涙が止まらなかった
元気がない私を見て2人は心配してくれたが、本当の事は言えなかった
暗い顔をした私に両親は「大丈夫?」と声をかけたが、「大丈夫だよ」と嘘をついて自分の気持ちを押し殺した
以来、不安と恐怖と戦う毎日だった
眠る度、目覚める度に心がすり減っているような気がした
ある朝、ふと目が覚めた
窓の外はまだ暗いが、空が紫色に染まろうとしている
私は銃を手に外へ出掛けた
フラフラとほの暗い街を歩いていく
人の姿は見つけられなかった
まだ眠っているのか、それとも私以外誰も居ないのか
最早どちらでもよかった
目的地は学校の屋上
閉めきった校門をよじ登る
何故か鍵はかかっておらず、簡単に校舎内に侵入できた
一段一段階段を上っていく
無骨な足音が誰もいない校内に虚しく響いた
階段の終着点、その突き当たりには埃を被った扉が佇んでいた
躊躇いもなく扉に手を伸ばし、その先へと出た
風を遮る物が無いため容赦なく体に叩きつけてくる
手すりの方へ向かう
ここからは街を一望できる
東の空が紅く染まりだした
手すりを乗り越え、その向こうへ立つ
太陽が顔を覗かせ、街と私を照らしていく
その景色に切なくも感じるものがあった
銃を強く握り、頭に突きつける
辛くなったり、死にたいと思った時はこれを使え
そう言った兎さんの言葉を思い返していた
私はまた涙を流している事に気づいた
手に力がこもる
引き金に指を添える
少し笑顔で私は呟いた
「私の居場所は―」
私は初めて自ら一歩を踏み出した
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