Double 14話

投稿日:2010/09/28 22:44:20 | 文字数:3,687文字 | 閲覧数:52 | カテゴリ:小説

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ここまでが第一部的な感じ?

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 白い世界に切り取られたかのように浮かぶ、幾つもの出鱈目な映像。無数の数字の羅列に、流れる光の群れ。ブリュンヒルドは電脳空間を駆けていた。
 ジークルーネ達との戦闘の最中、シュヴェルトラウテから緊急信号が届いた。何があったのかまではわからないが、緊急を要する事態が発生したことは間違いない。ブリュンヒルドは空間庭園に一刻も早く戻らねばならなかった。
「くそ。またか……」
 ブリュンヒルドは忌々しげに呟いた。 
 ブリュンヒルドの目の前には、何度目かのファイアフォールが行く手を阻んでいた。揺らめく陽炎のようなそれは、Eエンジェルの誰かがブリュンヒルドの移動を邪魔するために用意したものだった。それほど強力なものではないが、僅かに時間を取られる。
 シュヴェルトラウテの身に何かが起こっており、さらに他のEエンジェルがブリュンヒルドを妨害している。それだけが今現在明らかなことだった。
(狙いは何? シュヴェルトラウテの破壊、私やマスターの戦力低下を狙っているの。それとも……)
 ブリュンヒルドは思考を巡らせた。
 犯人の目的は基本的には一つだろう。ジークルーネと同じく束縛されない、自由に行動する権利だ。だがブリュンヒルドはそれを許さない。
 マスターに創られた存在である以上、マスターの命に忠実であらねばならない。自由な振る舞いなど許されざるものだ。よって反逆者にはそれ相応の制裁を加えてきた。犯人も、それは十分に分かっているといえる。
 自由を求めれば、ブリュンヒルドとマスターに敵対することになる。それを理解したうえで、行動に出てきたのだ。しかし腑に落ちない。ブリュンヒルドを消したいのであれば、今のジークルーネ達に協力したほう手っ取り早かったのではないのか。
(妙な胸騒ぎがする。少し急いだ方がいいかもしれない) 
 ブリュンヒルドは目の前のファイアウォールを破壊するために、破壊プログラムを編み始めた。両手に光り輝く粒子が集まり始める。武器の形状までもっていかなくても、この程度のファイアウォールならば、簡易的な破壊プログラムでどうにかすることが出来る。ブリュンヒルドはまとまった光の粒子をファイアウォールに叩きつけると、瞬く間に消えていった。

 空間庭園に辿り着いたブリュンヒルドの目に飛び込んできたものは、片腕を失くしたシュヴェルトラウテとEエンジェル、ロスヴァイセであった。
「何があったの?」
 ブリュンヒルドは警戒を緩めず、白銀の甲冑姿で二人を問いただした。
「グリム三姉妹が強襲してきたわ。ロスヴァイセの加勢がなかったら、やばかったかも」
 シュヴェルトラウテは持っていた日本刀を消し去ると、甲冑姿から着物姿へと姿を変えた。危難が去ったため、無駄なプログラムを終了させ、早急に自身の回復作業を始めたのである。
「ロスヴァイセ……。よく来てくれましたね。ありがとうございます」

 ―――ッ!

 ロスヴァイセは無言でブリュンヒルドを殴りつけた。それでダメージを負うブリュンヒルドではないが、これがロスヴァイセのブリュンヒルドに対する明確な意思表示であった。
「マスターを守るべき貴方がここを留守にしているなんて。それでよくリーダーぶっていられるわね」
「すみません。私のミスです」
 プライドの高いブリュンヒルドが珍しく、素直に頭を下げた。ブリュンヒルドとて、有事の備えは怠っていない。ある程度シュヴェルトラウテ一人でも守りきれるように、ここには色々な仕掛けを施しておいた。それでもやはり、自分がここを離れるのは間違いであったのだ。
 
 Eエンジェル、ロスヴァイセ。彼女は最も最初に作られたEエンジェルであり、いわば全ての母体となったAIプログラムだといえる。マスターの命の元、様々な実験に身を投じてきており、最も長くマスターと共に存在するEエンジェルである。
 最初に誕生したEエンジェルというステータスからか、彼女のマスターへの忠義心はブリュンヒルドと同じかそれ以上に高い。それゆえ彼女はブリュンヒルドに対し高い対抗心を抱いていた。
 能力の高さからリーダーの座を任されているブリュンヒルド。ロスヴァイセから見ればそれは理に適っているけれど、素直に受け入れるには面白くないことだった。
 誰よりもマスターのために動いているのは自分だという自信がある。そのプライドが彼女の全てであった。
 ブリュンヒルドとロスヴァイセ。共にマスターへの絶対忠誠を誓ったEエンジェルでありながら、永遠に相容れない存在でもあった。

「ブリュンヒルド、二度とこんなことがないように。グリムゲルデは抜け目が無いわ。次も今回のようにうまくいく保証は無い。マスターのためを思うなら、貴方は動かないで」
「分かりました。しかし、こちらも言わせて貰いますが、他のエンジェル達をこのままにしておくことは出来ません。ジークルーネ達もグリム三姉妹も、これからは組織だって動いてくる可能性が高いのです。このまま放っておけば、何をやってくるか」
「それなら問題ないわ。私がやるから」
「…………」
 ブリュンヒルドは何も言わずロスヴァイセの顔をじっと見つめた。
 ロスヴァイセのスペックは全Eエンジェル中、最低のスペックである。それを証明するかのように、彼女は戦闘直後であるにも関わらず防御プログラムを展開させた甲冑を身に纏ってはいない。白のワンピースといえば聞こえは良いが、その実単なる真っ白な布切れを身に纏っているだけだった。
 彼女も防御プログラムを扱うことはもちろん出来る。それでも他のEエンジェルのものと比べると、まるで紙の鎧程度のものである。それならば別の部分に全力を注ぎ込んだ方が、まだマシな戦いが出来るというものである。防御を捨て攻撃に全力をかけることで、ようやく他のEエンジェルに攻撃が通用する程度なのだ。
 それほどのスペック差を考えると、簡単に任せられるものではなかった。
「心配してくれてるの? だったら余計なお世話ね。全てはマスターのため、それだけよ」
「……わかりました。造反組の討伐はお願いします」
 全てはマスターのため。そうだ、それでいいのだ。ブリュンヒルドは己の感情を殺し、頷いた。ロスヴァイセとてむざむざやられはしないだろう。彼女は自分の弱さを自覚している。ゆえに、その弱さを克服する方法も知っている。それは自らの命を削るような行為に他ならないが、それでもマスターのためならば彼女は命すら差し出すのだろう。
「シュヴェルトラウトにも協力させましょうか?」
「その必要があればお願いするわ。今は一人の方が動きやすいし、傷ついている子を引きずって行くのは趣味じゃないわね」 
「なら何かあれば知らせてください」
「わかったわ」
 ロスヴァイセは、ブリュンヒルドを一瞥するとふわりと宙に浮かんだ。そして、そのまま振り返ることなく、僅かな空間の揺らぎだけを残して消えていった。

「良かったわね。味方が増えて」
 堅物なブリュンヒルドは誰からも誤解され敵を作りやすい。そんなブリュンヒルドに味方するEエンジェルが現れたことをシュヴェルトラウテは嬉しく思った。
「共通の目的があるから一緒に行動しているだけよ。ただ……一番敵に回したくなかった相手が敵にならなかっただけ幸運ね」
 ブリュンヒルドに対するロスヴァイセの対抗意識は強い。その執念は、三倍近いスペック差を持つブリュンヒルドですら、生半可な相手ではないという認識を抱かせるに十分なほどであった。
 ブリュンヒルドの持つ鋭い直感力、本来プログラムである彼女がそんなものを持つに至ったのも与えられた人間としての人格ゆえだ。ロスヴァイセの持つマスターへの異常なまでの忠義心、それが本来のスペック以上の力を引き出してもおかしくはなかった。

「この先、一波乱ありそうね。気苦労ばかりだわ」
 ブリュンヒルドはフーと息を吐くと、重苦しい白銀の甲冑姿から白いドレス姿へと変わった。ロスヴァイセには常に己を着飾っているだけの余裕もない。ブリュンヒルドにとっては何でもないことも、ロスヴァイセには夢のようなことなのかもしれない。
 誰よりも役に立たないからこそ、ロスヴァイセは信頼という心に全てを賭けているのかも知れなかった。
「お茶でも淹れましょうか」
「そうしてちょうだい」
 ブリュンヒルドはテーブルとイスを作り出すとさっさと腰を落ち着けた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
 短い言葉のやり取りを終え、二人してお茶に口をつける。シュヴェルトラウテが差し出したのは昆布茶であったのだが、ブリュンヒルドはそれを飲んだ。中身が分からないわけではない。何てことはないただの気まぐれ。そういうこともある。
 長い間、無意味に続けてきたお茶を飲むという行為。それに対してブリュンヒルドは何かを感じなくはなかった。それが人間で言う『落ち着く』ということだとは、さすがのブリュンヒルドにもまだ分かってはいなかった。

活動停止中。

もうダメ。疲れてしまった。

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