先に帰れと言ったのに、めーちゃんもカイトも、美憂の住むマンションの前までついてきた。
家に帰るなら、遠回りになるというのに…そんなに俺が気がかりなのか?少しばかり落ち込む。
「もういいだろ。ちゃんと自分で帰ってくるし、もしそれが無理でも、何とかするから」
「…本当にですか?」
そう問うてくるめーちゃんの声は、疑っているというより心配しているような響きが含まれていた。
だが俺には、それをありがたいと思う余裕はなく、むしろ早く帰ってくれと念じていた。
「大丈夫だから。な?」
何が大丈夫なのか、自分でもよく解らないが、そう言うと、2人は不安げに顔を見合わせながらも、ようやくその場から歩き去ってくれた。
―Drop―
第四話
2人の背中が完全に見えなくなったのを確認してから、俺はマンションのエントランスを抜けて階段を登り始めた。
歩いて登るのがもどかしくて、つい早足になる。
しまったな、エレベーターを使うべきだったか。
だが、歩いていればその分余計な事は考えにくいから、いいか。
目的の部屋の扉にたどり着いて、呼び鈴の気の抜けた音を聞いてからやっと、俺は少し気持ちを落ち着ける事ができていた。
少しだけだが。
『はいはーい、ハルちゃん?』
呼び鈴を押して数秒の後、聞こえてきた声に苦笑する。
「こっちが何も言わないうちに確認するなよ。違ったらどうするつもりだったんだ?」
『じゃあハルちゃんなんだ。待ってて~、今開けるから』
無視かよ。
だがそう言い返す間もなく、声が消えて、すぐにカチャリと鍵の開く音がした。
そして扉が開いて、従姉妹がひょこりと顔を出した。
「や、ハルちゃん。待ってたよ~」
「悪かったな、いきなり電話して」
「気にしないで。さ、入って?あんまりアキラちゃんを待たせても悪いし」
馬鹿みたいに明るい笑顔に混じって、一瞬、美憂の顔に影が射した。
それでも何も触れてこない彼女の気遣いが、少し嬉しかったが…気が付くと、勝手に声が出ていた。
「美憂、お前…こうなる事、解ってたのか?」
「…どうしてそう思うの?」
訊き返してくる彼女は、困ったように笑っていた。
アキラを待たせるのは悪いと言っていたのに、玄関口で立ち止まったまま、少し低い位置から見上げてくる。
答えない俺をどう思ったか、美憂は浅く溜め息を吐いた。
「まぁ、そう思った理由なんて何でもいいんだけど…なんとなく、こうなるんじゃないかとは予想してた。当たってほしくなかったけど…」
「…すまん」
「悠が謝る事じゃないでしょ?謝らなきゃいけないのは私の方。…予想が当たってほしくなかったのに、ちょっと余分にお酒を買ってきちゃったんだよね」
途端に、暗い表情だった美憂の顔が、イタズラをしたのが見つかった子供のようなものへと変わる。
彼女の視線の先には、俺が手にしているビニール袋。
「あー…買わない方が良かったか?」
「まさか。お酒が足りなくなるよりはいいでしょ。…っと、悠長に話してる場合じゃなかったんだっけ」
そう言うと、美憂は俺を放って、いそいそとリビングへと向かった。
どうしたものかと考えかけたが、美憂に入れと言われていたのを思い出して、上がらせてもらった。
今までも何度か遊びにきているせいで、部屋の間取りは完璧に解る。
リビングに足を踏み入れると、やや不機嫌そうな瞳と視線がぶつかった。
「他人の家の玄関で長々と、何を話してたんですか?ハルちゃん先輩」
「随分な言い草だな…。何でもねえよ。っていうか、ここはアキラの家じゃないだろ」
前から思っていたが、こいつは俺を先輩と呼びながらも、内心先輩と思っていないんじゃないか。
無意識に、あの硬い笑みを浮かべながら、何でもないと応えた俺にも、彼女…東雲晶は、ほんの少し眉を寄せただけで、自分のグラスに口をつけた。
ざっと見たところ、既に結構な量を飲んでいるようだが、それでもまったく酔った様子がないのは、流石、うちのめーちゃんに酒豪と称されるだけの事はある。
まったく、いつだか酔って潰れた時はまだ可愛げがあったのに。
…そういえば、あれ以来、彼女の俺に対する態度がさらに悪化した気がする。
「ごめんねアキラちゃん。つい話し込んじゃって」
「別にいいですよ。気になっただけですから」
「気になったって、お前な…。そういえば美憂、帯人はどうした?あいつ、酒にはかなり強かったと思うんだが…」
俺は、美憂を慕っている亜種VOCALOIDを思い浮かべながら、何気なく問うた。
うちのめーちゃんはかなりの酒好きだが、帯人はそのめーちゃんとも楽々張り合えるらしい。
飲み比べで彼女に勝てる奴なんて、アキラくらいのものだろうと思っていたため、それを知った時はかなりショックを受けた記憶がある。
だが、美憂は苦笑してこう答えただけだった。
「帯人は、今日はもう寝てるの。またアキラちゃんに無理させちゃいたくないし」
「私は一緒に飲みたかったんですけどね」
「それは…やめとけって。どうせ飲み比べに発展するだろ。お前、多分負けるぞ」
「…へえ?」
負ける、という単語を耳にしたアキラが、ひくりと頬を引き攣らせる。
前言撤回。こいつ、少しは酔っていたようだ。
「私が?負ける?あの天然君に?ナメられたもんですね」
「おま…どんだけ飲んだんだ。そこまで勝ち負けにこだわる奴だったか?お前」
「何ですか?私に負けるのが嫌なんですか?それに、早々に潰れる人には言われたくないです」
ダメだこいつ、早くなんとかしないと。
…なんて言葉は頭に浮かばなかった。
俺が何とかできるとは思えないし、それに。
「…ケンカ売ってんのか?」
精神的に参っていたのか、俺自身も、かなり沸点が低くなっていた。
普段なら乗らないような挑発にあっさり食いついた俺に、アキラがにやりと笑う。
「だとしたらどうします?私とハルちゃん先輩で飲み比べでもしますか?どうせ私が勝つでしょうけど」
「…乗った」
彼女につられて、自分の唇の端が自然と吊り上がったのを感じる。
やけくそになったのだろうかと、他人事のような考えを押し込めて、自分で買ってきた缶ビールを手に取る。
「あーあ…どうなっても知らないからね?」
美憂も美憂で酔っていたのだろう。
俺とアキラの不毛な争いを止めないばかりか、傍観する気満々なようだ。
…結果は、想像するのも容易いと思う。
アキラに言われるのは悔しいが、俺はそれほど酒には強くないのだ。
ほとんど顔色を変えずに、何度もグラスを満たしては空にしていくアキラに対して、俺はそれほど時間のたたないうちに、もう意識が朦朧としていた。
「ハルちゃん?悠~、大丈夫~?」
「大丈夫じゃ、ない…」
覗き込んでくる美憂には、なんとかそうとだけ応えられたが、もう無理だ。
支えきれなくなった体が、ぐらりと傾く。
その間にも、俺の意識はさらに霞み、混濁して…床に衝突するより前に、何も解らなくなる。
ああ、やっぱり飲み比べなんかするんじゃなかったな。
後悔しても、もう遅い。
酒に、後悔に、溺れた心は、深く深く、沈んでいく。
後悔の源…10年前へと。
【自作マスターで】―Drop― 四話目【捏造注意】
どうも、桜宮です。わっふー!
…復帰して以来、わっふーが頭に焼き付いて離れないんですが(笑
テンション上げるにはすごくいいです^^
えー、っと、ですね…。
つんばるさん、もう本っ当にすみません。
なんかお酒飲んでるだけになってしまってすみませんorz
いつだったか、つんばるさんからいただいたコメントで「帯人と飲んでみたい」と言われた記憶があったのと、晶さんが酔ったらどうなるんだろうとか考えながら書いてたら、こんな酔っ払いだらけの文になってしまいました(滝汗
今度はもう少しちゃんとしたとこに出演していただきます…!
とりあえず、美憂さんのとこの帯人はお酒に強いと思います。
どんだけ飲んでもけろりとしてる気がします、彼は。
めーちゃんがいい感じに酔ってる横で、きょとんとしてそう。
…はい、妄想乙。お酒飲まない奴が何言ってんだって話ですよねorz
さて、次回からは悠さんの夢…もとい、過去編です。
悠さん中学3年生、15歳。
美憂さん高校3年生、17歳。
…私より年下かぁ…頑張ります(何を
今回のゲストキャラである、東雲晶さんの生みの親、つんばるさんのページはこちらです。
→http://piapro.jp/thmbal
今回のシリーズでモチーフとさせていただいている曲は、こちらです。
『37℃の雨』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4103304
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とは言っても、あと1、2月ほどたてば、日が沈んで暗くなっているような時間だ。
「まずいな…完全に遅刻だ」
「マスターがぐずぐずしてるからですよ、もう…」
駅のホームで時計を見て唸ると、呆れたようなめーちゃんの声が飛んできた。
行くと宣言したものの、やはり自分には、行きたくないと...【自作マスターで】―Drop― 二話目【捏造注意】
桜宮 小春
彼女と目が合ったのは、ほんの一瞬だけ。
だが俺には、その一瞬が何十分にも、何時間にも感じられて…やっとの事で目を逸らした。
そんな俺へと、足音がゆっくりと近付いてくる。
来ないでくれと強く思いながらも、はっきりと拒む事はできないまま、隣に南海が立ったの気配を感じ取っていた。
「白瀬君…ちょっとだけ...【自作マスターで】―Drop― 三話目【捏造注意】
桜宮 小春
!注意!
この先、KAITOの亜種がいます。
嫌悪感を感じる方は、見ないことをお勧めします。【レンリン注意】―Crush― 第四話
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1度しか、それも前を通った事しかなかったのだが、俺はちゃんと覚えていたらしい。
だけど…彼女の家の前まで来て、躊躇う。
『あいつ、なんかきっついんだよな…理屈屋だし』
いつだったか、マスターがそう言っていたのを思い出して、俺は少し、不安になっていた。
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黙って出ていって夕方になっても戻らなかったんだから、その事は怒られたけど、俺が無事だった事に対する安堵の方が大きかったらしい。
もっとも、俺にとっては、リンに泣かれてしまった事が、一番辛かったけど。
―Crush―
最終話
次の日。
俺は夜の間にも...【レンリン注意】―Crush― 最終話
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